‘シシリー・アレキサンダー嬢’(1872~74年 テート美)
‘白衣の少女(白のシンフォニー)’(1862年 ワシントンナショナルギャラリー)
浮世絵で歌麿の大首絵美人画にぞっこん参っているが、西洋絵画にも心をと
きめかせる女性の絵がたくさんある。古典絵画からロココまではちょっと横
にしてお気に入りの画家をざっと上げてみると、アングル、コロー、ラファ
エロ前派、クールベ、ホイッスラー、マネ、モネ、ルノワール、サージェン
ト、ゴッホ、クリムト、ミュシャ。
はじめは関心の大半はルノワールとマネに向かっていたが、海外の美術館通
いの回数が増えたり日本で行われた回顧展をみたことでいい女性画がリスト
にどんどん載っていくようになった。ホイッスラー(1834~1903)
の場合、きっかけは1998年東京都美でお目にかかった‘シシリー・アレキ
サンダー嬢:灰と緑のハーモニー’。印象的な白の衣裳を着た少女の美しい顔
に思わず足がとまった。人物画で体がフリーズする作品はそうない。よくみ
ると横に2羽の蝶々が飛んでいる。この頃はまだ日本画の視覚体験が多くな
かったのでこの蝶々の意味がわからなかった。後で図録の解説を読むとおも
しろいことが書かれていた。この少女はモデルにあきてご機嫌斜めだったと
いう。そういわれるとふてくされた顔にみえなくもない。
少女のあとワシントンのナショナルギャラリーで縁があったのは、これまた
きれいな女性の立ち姿が描かれた‘白衣の少女(白のシンフォニー)’。この女
性が身につけているのも白の服で、さらに背景まで白で描いている。普通は
背景の色はモデルを引き立たせるため違う色になるところをホイッスラーは
白づくめにした。この絵に遭遇した時点では‘白のシンフォニーNo.2’と‘No.3’
のことはまったく頭にない。というのも、手元にホイッスラーの画業全体を
知ることのできる画集がなかったからである。
そのうち2点が載っている画集を手に入れたものの、日本でホイッスラーの
回顧展が行われることなんて予想もしないので本物に会えるなんて期待して
ない。ところが、奇跡みたいなことがおき2014年横浜美で実施された特
別展に2点とも出品された。これで白のシンフォニーはコンプリートした!
ともに女性が団扇をもっていたり花や陶器をチラッとみせたりするなど小道
具の選択には浮世絵の影響がみられるが、女性の描き方は西洋画の枠のなか
におさまっていてクールベとムーアの影響がうかがえる。
オルセーにある‘画家の母’は日本に一度やってきた。最初パリでみたときは
それほど惹かれなかったが、ホイッスラーとのつきあいが増すにつれ、横から
描かれたこの母親のしゃきっとした姿をじっくりみるようになった。この絵の
大半は黒と灰色で占められているので勝手に‘黒のシンフォニー’と呼んでいる。