国芳は猫が大好きだったので猫を人間に変身させおもしろい戯画をつくった
り、髑髏のパーツに猫を使うという誰も思いつかないことを考える。
そして、猫と同じくらい大きな愛情を注いだのが子どもたち。心を和ます
子ども絵が沢山ある。小さい頃の楽しい思い出を蘇らせてくれるのが‘子供
あそびのうち 川がり’。釣りをする子、亀を追っかける子。どのシーンも
体験した遊び。亀にはとくに愛着がある。のしのし進む亀をみつけたとき
は嬉しくてたまらなかった。
‘当盛花合’は団扇に摺られたもの。果物の皮を剥いでいる母親の背中でじっ
とこちらをみている赤ん坊の目力がすごい。果物はお盆の3つと合わせて
4つ。ご馳走にありつけるのを静かに待っているのだろう。後ろの鉢をみる
と金魚がいっぱい泳ぎ回っている。庶民の暮らしはこんな見慣れた光景があ
れこれつながっていく。足で猫をからかっている女の姿を描いた‘当世商人
日斗計 日九時’はとても気になる一枚。こういうくだけた人物描写が生ま
れるのは国芳にゆるい観察眼が身についているから。
‘橋間のすずみふね’は舟の配置が感心するほど上手い。中央のイケメンの男
を左右の舟に乗った芸者がみている。夏の昼間、橋の下は涼をとる男女が
集まってくる。歌舞伎役者にでもなれそうないい男と芸者とくれば話がは
ずむにちがいない。上空のカモメの群れも会話を邪魔しないように飛び去っ
ていく。
藍一色で描かれた横長の‘両国夕涼之図’は人気の歌舞伎役者をモデルにした
ファッションブック。どの役者も細長い顔で釣り目だが瞳は大きくし、鷲鼻
で描くのが国芳流。この絵では役者はブロマイド風になっているが、出光美
が所蔵する‘役者夏の夜図’に登場する役者たちは横一列に影をつけ密状態で
描かれている。