洋画や西洋画とちがい平常展にでてくる日本画は作品保護や展示スペースの
関係で一度にみれる数は限定される。画家の代表作や美術本にとりあげられ
るものが相当数あるのでローテ―ションにしたがって順番に飾ったとしても
かなりの日数がかかる。さらに悩ましいことがある。それは人気のある画家
はどうしても展示のサイクルが早くなる傾向があるため、その分相対的に
知名度の低い画家は名画なのに後回しになる可能性がある。こうした段取り
には苦労するだろう。
京都出身の竹内栖鳳(1864~1942)の‘雨霽(あまばれ)’や上村松篁
(1902~2001)の‘星五位’は平常展でお目にかかったという実感がな
い。ともに描かれているのは五位鷺だが、松篁の五羽を縦に配置する構成
がとても斬新でこれまでとはちがう新感覚の花鳥画が誕生した。鳥のフォル
ムを抽象化のフィルターでみることもできるので息を呑んでみてしまう。
ここには徳岡神泉(1896~1973)が5,6点ある。いずれも松篁の
抽象的なセンスがさらに深まった感じで、もっとも気に入っている‘仔鹿’に魅
了され続けている。背景のない画面にふりかえる一頭の仔鹿が浮き彫りにな
っている。これは西洋画のジャンルでいうと抽象画になる。だから、スゴイ
のである。
吉岡堅二(1906~1990)の‘氷原’に描かれているのは鹿にくらべると
生命力が全開状態にある大きなトナカイ。どこかでみたことがある動物画。
そう、アルタミラ洞窟の壁画。量感豊かにとらえられたトナカイの群像表現に
ふさわしい縦2.1m、横5.5mの大画面の前に立つと気が高ぶる。
一方、小茂田青樹(1891~1933)の‘虫魚画巻’の驚異の細密描写にも
目が点になる。小さい頃、蜘蛛や蛙,飛び交う蛾とよく遊んだ。