東近美ではここ10年くらいの間に心が弾む日本画家の回顧展が何度も行わ
れた。小野竹喬(2010年)、上村松園(2010年)、竹内栖鳳
(2013年)、菱田春草(2014年)、安田靫彦(2016年)、横山
大観(2018年)。そして、2023年には待望の鏑木清方(1878~
1972)が予定されている。
これに大きな期待を寄せているが、目玉は2019年秋に公開された幻の
名画、‘築地明石町’。この憧れの美人画の鑑賞はほとんど諦めていたから夢の
ような話である。ここにはほかにも重文に指定されている‘三遊亭円朝像’や
‘明治風俗十二ヶ月’などいい絵が揃っているので大清方展になることはまちが
いない。
上村松園(1875~1949)の‘母子’は母親が抱いている赤子の後ろ姿が
とても可愛い。松園の美人画に惹かれるのは女性の体の動きがすごく自然な
ところ。赤ちゃんを軽く揺すっているのがすぐわかるのでつい近寄ってみた
くなる。香道のことを知ったのは伊東深水(1898~1972)の‘聞香’を
みたから。師匠をふくめ4人の女性の配置が画面にぴたっとおさまっている。
素人の浅知恵でこういう構図はさっと出てきそうだが、コロンブスの卵みた
いなもので創作の力がないと難しい。
小倉遊亀(1895~2000)の‘浴女 その一’をはじめてお目にかかった
とき、浴槽の水がつくる揺ら揺ら感に仰天した。底や側面の正方形のタイルが
水の揺れによって柔らかい曲面に変化している。画面全体は平板にみえるの
に浴槽だけは立体的な造形になっているのがおもしろい。水とのつながりで
冨田渓仙(1879~1936)の‘紙漉き’も忘れられない一枚。これもマテ
ィスの室内画のように一見すると子どものお絵かきみたいにペタッとした描き
方になっているが、水の流れる速さに注意がいきそのことが気にならない。