山種にはメインの近代日本画のほかにも江戸時代に描かれたいい絵がいくつ
もある。注目は琳派。平安時代にタイムスリップした気分でながめられるの
が本阿弥光悦(1558~1637)と俵屋宗達がコラボした‘四季草花下
絵和歌短冊帖’。全部で18枚あるが、もとは20枚が六曲一双の屏風に貼
られていた。
酒井抱一(1761~1828)の‘秋草鶉図屏風’は琳派展が開催されると
きは欠かせないピース。黒いラグビーボールのようなものは月、これにまず
視線がいき、下の鶉に目をやるとなんと5羽がススキや女郎花に囲まれてい
る。まさに秋真っ盛り。
抱一の師事した鈴木其一(1796~1858)は目が慣れてくるにしたが
ってその画才の幅の広さに驚愕するようになる。琳派のシンボルみたいな
‘風神雷神’からはじまってじんとくる花鳥図、さらには浮世絵を思わせるよ
うな風俗画まで描いている。‘四季花鳥図’は正方形の画面に菊やススキなど
が互いに喧嘩することなく優しく重なり合ってる。
岩佐又兵衛(1578~1650)の‘官女観菊図’もここのお宝のひとつ。
牛車から二人の宮廷女性が菊を眺めている。ともに下あごあたりが異常に
膨らんでいる。だから、すぐ又兵衛様式の美人画とわかる。これはもとは
‘旧金谷屏風’に貼られていたもので、現在は12図に分割されて美術館や
個人におさまっている。
充実した浮世絵コレクションもときどき公開される。なかでも鈴木春信、
鳥居清長、歌川広重の‘東海道五捨三次’がすばらしい。鳥居清長(1752
~1815)の‘当世遊里美人合橘妓と若衆’の前では思わずうわっ!と
なった。これほどいい摺りの状態の清長はなかなかみれない。