‘雷雨のあとのコネチカット川’(1836年 メトロポリタン美)
‘キャッツキル山地の眺め‐初秋’(1837年 メトロポリタン美)
‘生命の旅、子供’(1842年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー)
メトロポリタン美へはじめ行ったのは30年前の1990年。その頃絵画に
対する感じ方は普通程度だったので美術本で知っているモネ、ルノワール、
ゴッホ、ゴーギャンの絵には強く反応したが、この美術館に自然を緻密に描
くハドソンリバー派の大きな絵が飾ってあることは知る由もなかった。
その中核の画家であるトマス・コール(1801~1848)、フレデリッ
ク・エドウィン・チャーチ(1826~1900)、アルバート・ビーアス
タット(1830~1902)の作品を実際にこの目でみたのはアメリカ
の美術館巡りを本格的にスタートさせた2008年のこと。
これ以降、アメリカへ行くたびに彼らの大画面に驚くほど細かく描かれた
風景画に遭遇し、深くのめりこむようになった。ヨーロッパの美術館でハド
ソンリバー派にお目にかかることはまずない。唯一展示してあったのがマド
リードのテイッセン・ボルネミッサ美。ここはホッパーをもっており、アメ
リカ絵画の蒐集に熱心なのでハドソンリバー派もゲットしている。ハドソン
リバー派と縁ができたのは情報がまったくなかったところからアメリカの美
術館へ飛び込んだことの成果といっていい。ミューズに感謝!
METにあるコールで息を呑むほど目を奪われるのは‘雷雨のあとのコネチカッ
ト川’と‘キャッツキル山地の眺めー初秋’、そしてシカゴにある‘ナイアガラ滝
の遠景’にもすごく惹きこまれる。どの絵もアメリカの雄大な自然を実体験し
てないのにBS番組でよく流れてくるドローンを使った大自然紀行の映像をみ
ているような感覚。
自然にできる秩序には神が宿っており、その存在が山々や草木の細部までリ
アルに表現させているのではないかと思わせるコールの風景画はまさに神業
的な創作かもしれない。また、こういう自然を背景にしてコールは宗教画や
ロマンチックな物語画にも挑戦している。それがボストン美にある‘楽園追放’
とワシントン・ナショナル・ギャラリーの連作‘生命の旅、子供’。ミケランジ
ェロがシスティナ天井画に描いた‘原罪、天国のアダムとイヴ’と比べるとコー
ルの漆黒の絵の方が追放される2人の苦しみが切々と伝わってくる。