高橋由一(1828~1894)というと美術の教科書に載っていた縄で吊
るされた鮭の絵が条件反射的にでてくる。これが絵画鑑賞が趣味のひとつに
加わると由一の作品の数も徐々に増えていきほかのジャンル、例えば風景画
にも足がとまるようになる。東博の常設展示に登場する‘酢川にかかる常盤橋’
を何度もみているうちにすっかり由一の風景画に目が離せなくなった。愛知
県美にある遠くから眺めた‘不忍池’もなかなかいい。
安井曾太郎(1888~1955)は1937年の第1回満州国美術展の
審査を依頼され藤島武二ともに中国にでかけている。その仕事がすんで帰国
する途中河北省承徳に立ち寄った際、ラマ教の寺院に目を奪われ写生をした。
それをもとに描いたのが‘承徳喇嘛廟’。ピンクがかった寺院が印象深い。
洋画家で回顧展に運よく遭遇したのは日本画家にくらべるととても少ない。
高橋由一は2012年に東芸大美がすばらしいものをやってくれたので言う
ことなし。ほかのビッグネームでは黒田清輝、藤島武二、青木繁、岸田劉生、
岡鹿之助も大きな満足レベル。でも、安井曾太郎と梅原龍三郎はまだ満足し
てない。なかなか大回顧展に遭遇しないのである。残念!
岡鹿之助(1898~1978)の‘窓’は2008年ブリジストンでお目にか
かった。窓の枠組みをマティスも使っているが、由一の‘不忍池’の構図のとり
方も窓的だし、浮世絵を見ている日本の画家はこういう絵は得意だから描か
れた風景をゆったりと楽しめる。
絵に感じるイメージは人それぞれだが、みるたびにその筆使いが油絵そのも
のだなと思わせるのが林武(1896~1955)の‘ノートルダム’。銀座の
画廊をまわるとこんな絵にでくわす気がする。