近鉄奈良駅からバスで10分くらいのところにある新薬師寺を訪問したのは
もうだいぶ前のこと。普通の家々が並んでいるところにそれほど大きくない
お寺があるため拍子抜けする。これが新薬師寺かね?というのが率直な感想。
ところが本堂に入ると一気に緊張感につつまれる。
それは円形の須弥壇に安置されている本尊の‘薬師如来坐像’をぐるっと外向き
に囲んでいる‘十二神将像’が圧倒的な存在感に示しているから。彫像として
の十二神将はこれが最古のもの。いろいろなお寺で十二神将に出会ったが、
こういうふうに薬師如来をとりかこむように配置されているのはほかにみた
ことがない。
正面の最前列にいるのが怖い顔をした‘迷企羅大将’(寺伝では伐折羅)と静か
に前方を見据えている‘波夷羅大将’(因達羅)。十二神将は二体ずつを一組と
して動と静といった形をとったり姿勢を反転させたりして緊密な対応をつく
っている。だから、ゆっくりまわりながら一体々みていくとテンションが
ぐんぐん上がっていく。顔の表情、手の動きをこれほど迫真的にまた衣装の
質感を丁寧に表現できるのはこれらがみな塑造による彫像だから。その特徴
は東大寺法華堂の金剛神立像や戒壇堂の四天王像の塑像とほとんど同じ。
ここの‘薬師如来坐像’は大きな目と黒の線が印象的な眉が目に焼きついている。
ユニークな円形土壇があり簡素なつくりの天井の下に12人の家来を従えて
薬師如来がどんと座っている。仏像をこれほどまじかでみられる機会はそう
ないので一生の思い出になっている。