高校生のころ日本史や美術の教科書でみた絵や彫刻はそれが生まれた時代と
の関連性が頭に入らなくても作品そのものはすごいものだということはわか
る。だから、そんな名品とじっさい対面すると感慨深いものがある。薬師寺
にある‘吉祥天像’もそのひとつ。中国唐時代の宮廷絵画にでてくる宮女をみて
いるよう。視線が集中するのはふっくらした頬と太い眉、そして赤の唇。
人気の日本旅館をとりしきる愛想のいい女将を連想させる。
‘八幡三神坐像’にお目にかかったのはこれが展示してある休ヶ岡八幡宮では
なくだいぶ前に遭遇した神社関連の特別展。大きな驚きは‘神功皇后’と‘仲津
姫命’の異様に長い髪の毛。おさげ髪の少女が一瞬のうちに大人になった感じ。
これほど髪に重量感があるとその重さで息苦しくなるのではと余計な心配を
する。
法相宗を開いた中国の僧、慈恩大師(632~682)の肖像画で印象深
いのはなんといってもつりあがった大きな目と上にぴんとはねている眉。
大男で豪快な人物といわれているが、あまりみたことのない眉の描き方が
その強烈な個性を表しているのかもしれない。
慈恩大師の師匠にあたるのが玄奘三蔵(632~682)。1991年に
玄奘三蔵をお祀りする玄奘三蔵院伽藍ができ、ここに鎌倉時代につくられ
た坐像(木像)などが飾られている。そして、2000年に平山郁夫
(1930~2009)が玄奘三蔵の求法の旅を描いた‘大唐西域壁画’
(7場面、13壁画)が献納された。‘ナーランダの月’は最後の場面で画面
右下にぼんやり立つ人の姿が玄奘三蔵。