関心を寄せているやきものが登場する展覧会は見逃さないようにしているが、
ガラス工芸についても熱くチェックしている。海外のものではなんといって
もガレやドーム兄弟らのフランスアールヌーヴォー様式でつくられたもの。
そして、日本のものでは薩摩切子に強い思い入れがある。本物をみたのは
20数年前九州大旅行をしたとき。食の収穫が本場の長崎ちゃんぽんと松翁
軒のカステラなら、芸術の感動は透明ガラスに色ガラスを被せられ美しく輝
く薩摩切子。
尚古集成館があるのは邸の向こうに桜島と錦江湾のすばらしい眺めがひろが
っている‘礒御殿’の隣。ここは薩摩藩主島津斉彬(1809~1858)が
殖産興業を進めるためにつくった集成館(工業団地)だったところ。現存し
ている機械工場が1923年以来尚古集成館と名づけられ博物館になって
いる。
1851年反射炉や溶鉱炉と一緒につくられたガラス工場で生まれたのが
絶品の薩摩切子。だが、つくられたのはわずか10数年のこと。館内には
いろんなものがあったのに覚えているのは薩摩切子だけ。1988年に作成
された薩摩切子に関する論考によるとその時点で残っているのは112点。
そのうち32点が尚古集成館、色の内訳は紅色が14点、藍色が15点、紫、
緑、無色が1点づつ。
その全部が飾られていなかったが、目を奪われるものがどどっと並んでいた。
これが‘薩摩切子か!’という感じ。どれもカットの技術が神業的で色ガラスと
透明ガラスとの境を微妙にぼかす繊細な美しさに魅了される。とくに難しそ
うなのが紅色の三段重や藍色の脚付蓋物。ここでも鑑賞体験は生涯の喜び。
薩摩切子との縁ができてから10年くらいたった後、サントリー美で‘まぼろ
しの薩摩切子展’(2009年)に遭遇した。待ち望んだ展覧会なので天にも
昇る気持ちだった。そこに件の解説文にでていたアメリカのコーニング・
ガラス美(NY)が所蔵している藍色の栓付瓶が堂々と飾られていた。こうい
う名品の里帰りは本当に嬉しい。