3年前、マドリードのプラド美で念願の‘ラ・トゥール展’をみた。美術本に
載っている主要作品はほとんど登場したので天にも昇る気持ちだった。
もちろんルーヴルからも出品されており、‘大工の聖ヨセフ’、‘羊飼いの礼拝’、
日本にもやって来た‘ダイヤのエースを持ついかさま師’が目を楽しませて
くれた。
ルーヴルはさらにもう3点、‘マグダラのマリア’と‘槍を持つ聖トマス’、‘松明
のある聖セバスティアヌス’を所蔵している。ラ・トゥール(1593~
1652)はフランス人だからここに6点あってもおかしくはないが、ルー
ヴルだからこその大コレクションといっていい。フランスの人はラ・トゥー
ルが大好き。だから、ここではカラヴァッジョ、フェルメールも旗色が悪い。
そのなかでもとくに人気があるのがカラヴァッジョから学んだ光と影のコン
トラストをきかせて描いた‘夜の情景’の代表作、‘マグダラのマリア’と‘大工の
聖ヨセフ’。蝋燭の光で上半身を照らされたマグダラのマリアの内省を浮き彫
りにした描写が心を揺すぶる。
5,6年前に開かれたルーヴル展に出品されたル・ナン兄弟(1600/10
~1648)の‘農民の家族’はとてもいい風俗画。ミレーが数多く描いた広い
農地を舞台にした農民画とは異なり、静寂さのなか精神的に強い絆で結ばれ
た家族の姿が外から差し込む弱い光によって映しだされている。
シャンパーニュ(1602~1674)は3人のル・ナン兄弟と同じ時代を
生きたフランスの画家。‘男の肖像’はじっとみていると画家のおもしろい描
き方に気づく。画面が開いた窓となっており、縁石におかれた男性の手がこ
ちらに飛び出してくる感じがする。これは北方の画家たちが得意とした
だまし絵の一種。