喜多川歌麿の‘北国五色墨 川岸(かし(’(1794~95年)
先月横浜そごうでミュシャの展覧会をみたので、2日前BS朝日で放送された‘世界の名画 世紀末パリ ミュシャの旅’にすぐとびついた。この番組をみはじめてから2年経つが、ミュシャが登場したのははじめてのような気がする。今年はミュシャ(1860~1939)を美術番組でみるのは2度目、4月日曜美術館でもとりあげていた。
番組の構成は1時間全部がミュシャの話でもなく、19世紀末のパリでポスターの黄金時代を築いたもう一人の立役者ロートレックの作風にもふれ、パリで流行したアールヌーヴォーが建築の分野ではどんな形で表現されたかも紹介していたから、情報量は予想以上に多かった。
そのなかではっとする話がでてきた。大女優サラ・ベルナールが演じた舞台の宣伝ポスター‘ジスモンダ’(1895年)がパリ中で人気を博し、一躍脚光を浴びたミュシャ、企業からはデザインの依頼が殺到し次から次と魅力的なポスター芸術が生み出されていった。
1896年に制作された‘ジョブ’はとてもぐっとくるポスターの一枚、そごうの展覧会でもお目にかかった。この絵柄の説明のなかでなんと喜多川歌麿(1753~1806)の‘ビードロを吹く娘’の名で記念切手にもなった‘婦人相学十躰 ポペンを吹く娘’がでてきた。ミュシャは歌麿の描いた美人画のポーズから霊感をうけ、この‘ジョブ’を描いたのだと。
この関係性はまったく想定外。工芸におけるアールヌーヴォーの旗手ガレだとジャポニスムや浮世絵の影響がすぐイメージされるのに、ミュシャと歌麿のコラボは思いつかなかった。たしかに、ミュシャの女性が煙草を手に持っている姿と歌麿の娘がビードロを吹いているところがなにか似ている。そして下にのびた長い髪の曲がり具合と着物の袖の流れるような曲線が造形的にパラレルに感じられる。ううーん、これはおもしろい!
歌麿の美人画で大変気に入っているのがふてぶてしい表情をした‘北国五色墨 川岸(かし)’、これは歌麿の美人画のなかでは異色の一枚。視線が向かうのはこの勝気そうな下層遊女が口にくわえた楊枝。ミュシャは‘ポペンを吹く娘’だけでなくこの絵もみたのかもしれない。