現在、ヴェネツィアは観光客があまりに多く来すぎるため住民の生活環境が
相当悪化しているようだ。報道によると大型客船は寄港してくれるなとい
う反対運動までおきているとか。この街には旅人の心をとらえる豊かすぎる
観光資源があるから観光客は止められない。でも、オーバーツーリズムの
影響はもう看過できないところまできている。ふたつをどうバランスさせる
か。知恵の出しどころである。
リアルト橋をすぎ大きくS地形にくねる大運河をサンタ・ルチア駅に向かっ
て進むと運河に面した館がみえてくる。1434年に創建されたときファ
サードが青、白、黒、黄金に彩色されていたことから、カ・ドーロ(黄金の
館)と呼ばれている。ここは1916年からフランケッティ美術館として
公開されており、予想以上にいい絵が姿を現わしてくれた。
圧倒的な迫力で存在感をみせつけるのがマンテーニャ(1431~
1506)の‘聖セバスティアーノ’、いくつかみたこの聖人の絵のなかでは
無数の矢の刺さり方が一番暴力的でその痛みたるや半端ではなさそう。日本
で言えば仁王立ちする弁慶といったところ。
ヴェネツィア派の巨匠たちもしっかり飾ってある。ティツィアーノ
(1485~1576)の‘ヴィーナス’はワシントンのナショナル・ギャラ
リーが所蔵する‘鏡を見ているヴィーナス’の変種のような作品。ヴィーナス
の白い肌の描写に魅了される。
動きのある人物表現と対称性をちょっと外す画面構成が特徴のティントレッ
ト(1519~1594)は肖像画も多く手がけている。‘老貴族の肖像’は
暗い背景に黒の衣服をまとい生き生きとした表情をみせる老人が浮き上がっ
ている。一番いい肖像画かもしれない。また、ヴァン・ダイク(1599~
1641)の‘伯爵の肖像’も長くみていた。