ウフィツィで感激することが多いのはここがルネサンス絵画の殿堂だから。
ダ・ヴィンチ(1452~1519)はヴェロッキオ(1435~
1488)の工房の一人として部分的に描いた‘キリストの洗礼’と20歳頃
の作品‘受胎告知’が目を楽しませてくれる。
ヴェロッキオはドナテッロ亡き後のフィレンツェ彫刻界の大親方。大きな
工房を構え彫刻や壁画の注文を多く引き受けていた。‘キリストの洗礼’の見
どころは洗礼をうけるキリストとヨハネの川につかる足。そのまわりに流
れる水の渦ができ水中の足がリアルに透けてみえる。洗礼の儀式がこうい
う風に足の指先まで細かく描かれているのは珍しい。
そして、注目の的はダ・ヴィンチが描いた左端の天使。後の作品でダ・
ヴィンチの魅力のひとつとなる精緻に表現された頭の金髪のくるくる巻き。
こちら向きの天使の髪と較べると軍配は即ダ・ヴィンチに上がる。ヴェ
ロッキオはこの描き方をみて‘もう絵を描くのは止めるよ!’と言ったとか。
天才ダ・ヴィンチに追い越されたのだから本望かもしれない。
日本に12年前やって来た‘受胎告知’で異様な感じがするほどリアリテイが
あるのが大天使ガブリエルの羽、なんと自然史博物館に展示してある鳥の
標本の羽とそっくり。数多くある‘受胎告知’でこれほど羽の質感にこだわっ
た画家はほかにいない。はじめてみたときはこの羽で頭がいっぱいになり、
空気遠近法で描かれた遠くの風景には気が回らなかった。
ラファエロ(1483~1520)がある部屋は通りを挟んで反対側の
建物。数は自画像など7点くらい。もっとも有名なのは‘ひわの聖母’、昔一
度みたが、そのあとでかけたときは飾ってなかった。10年もの歳月をか
けた修復は2009年にようやく終わった。美しい色彩が蘇ったらしいの
でまたみる機会があれば癒しの聖母と対面したい。
ラファエロの隣の部屋にはミケランジェロ(1475~1564)の有名
な円形画‘聖家族’が展示されている。彫刻家の絵だから人体表現は動きが
あり立体的。3体の彫像をみているようでとくに上半身をひねって幼子
イエスを慈愛にあふれたまなざしでみつめる聖母に魅了される。システィ
―ナ礼拝堂の天井画にでてくる巫女の姿がふと思い出された。