ティントレットの‘使徒の足を洗うキリスト’(部分 1547年)
ヴェネツィアへ団体ツアーで行くとヴェネツィア派の殿堂、アカデミア美の入館は行程には含まれてない。そのため美術好きは自由時間のときここを目指しベリーニ(1431~1516)やティツイアーノ(1489~1576)らの名画を目に焼きつける。ヴェネツィア以外の都市でヴェネツィア派が揃っているのはずばりルーヴルとプラド。
ルーヴルではあの‘モナリザ’が飾ってある部屋にヴェロネーゼ(1528~1588)の超大作‘カナの婚礼’に遭遇する。でも、観光気分の人は‘モナリザ’に頭は占領されているためこの絵の印象は絵の大きさの割には薄いかもしれない。これと同じことがプラドでもいえる。
ベラスケスの‘ラスメニーナス’の磁力が強すぎてヴェネツィア派までみるエネルギーがたぶん残ってない。でも、ここはトータルでみるとルーヴルを上回っており、本家のヴェネツィアの美術館や聖堂と較べ作品の数が少ないが質的に遜色のないものが多くある。だから、これを見逃すのはもったいない。
お気に入りはここにあげた4点。ジョヴァンニ・ベリー二の‘二人の聖女にかこまれた聖母子’はMy‘ベリーニベスト5’に入れている作品。ラファエロの聖母子ほど理想化されてなくちっとおとなしすぎる感じだが、この生感覚の静けさがとても心地いい。
たくさんあるティツィアーノはどれを選ぶかで苦労する。日本にもかなりの数がやって来たが、この‘ダナエと黄金の雨’はまだ貸し出しOKにしてくれない。裸体の輝きとあっと驚くゼウスの変身術によりこれが一番インパクトが強いかもしれない。
ここには最も好きなティントレット(1518~1594)がある。横長の大きな画面が気を惹く‘使徒の足を洗うキリスト’、これは遠近法という技法のもっている効果をあらためて実感させてくれる。左の後ろに消失点をとり奥行きをつくる極端な対角線構図が真にすばらしい。プラドを訪問するたびに感服させられている。
ヴェロネーゼの絵でぐっとくるのはじつはアカデミア美にはなくプラドの‘ヴィーナスとアドニス’がそのなかに入っている。この絵と似た感じですごく魅了されるのがフリックコレクションの‘愛と力’とメトロポリタンの‘愛によって結ばれたマルスとヴィーナス’。そして、数多く揃えているロンドンのナショナルギャラリーのヴェロネーゼも目を楽しませてくれる。