海外の美術館をターゲットにして名品展を開催するのは展覧会の定番のひとつになっているが、相性のいい美術館とそうでない美術館がはっきりしている。前者の代表がルーヴルやオルセーなどのフランスの美術館。そしてスペインのプラドやロシアのエルミタージュ、オランダのゴッホ美、アメリカのボストン美もよく行われる。
一方、後者はロンドンのナショナルギャラリーとかドイツの美術館で作品を見る機会がとても少ない。以前ドイツのメルツ゚バッハ―コレクション、ケルンのルートヴィヒ美がやって来たことがあるが、いかんせん単発の開催のためパリの美術館などと較べたら印象が弱い。
こうした国内の展覧会事情だとドイツの画家にふれる機会は限られるが、アメリカの美術館を幸運にもめぐることができたのでキルヒナー(1880~1938)やベックマン(1884~1950)にも度々遭遇した。グッゲンハイムにはこの2人とオーストリア生まれのココシュカ(1886~1980)やシーレ(1890~1918)のとてもいい絵がある。
ココシュカとキルヒナーが同じ年に描いた作品はともに兵士をモチーフにしている。‘さまよえる兵士’は画面が暗くかなり重たい絵。中央に大きく描かれた鎧をつけた騎士はココシュカ自身。右にいるスフィンクスの姿をした女性は別れた恋人アルマ・マーラー。lココシュカは恋の破局から立ち直れずにいる。
キルヒナーの‘シャワーを浴びる兵士たち’は緊張感を強いられる一枚。キルヒナーは1914年ドイツ軍に召集されるが精神が不安定になりすぐ除隊する。これはその後描いたもので、戦争から受けた精神的な圧迫や恐怖心がそのまま現れている。やわな人間はあの屈強なドイツ軍のなかではとても生きていけない。
メトロポリタン、MoMA同様、ここにもベックマンの圧の強い群像画がある。ここに描かれた社交界のメンバーは15人。隙間をあけずに男女が並んでいるが女性には華やかな雰囲気は無く、印象が強すぎる黒のタキシードを着た男性ばかりに目がいく。
シーレの‘老人の肖像’は2013年、2015年のとき必見リストの上位に載せていたのに連続で姿をみせてくれなかった。心理的に多くのエネルギーをつぎ込む追っかけも思い通りにはいかない。