関心を寄せている画家なら画集に載っている作品を全部みたい、だから主要な作品がどこの美術館におさまっているかおおよそ頭になかに入っている。例えばピカソ(1881~1973)、‘ゲルニカ’はマドリードのソフィア王妃センターにあり、‘アビニュンの娘たち’はMoMAでみれる。
NYではピカソはほかにもいい絵に会える。メトロポリタンへ行くと完璧に男と間違える‘ガートルード・スタインの肖像’に遭遇し、そこから歩いて10分くらいのところにあるグッゲンハイムでもすばらしピカソが出迎えてくれる。パリでポンピドーセンターとピカソ美をはしごしたときより、NYのほうが記憶に強く残る作品が多い。
こうした体験からいうとピカソを腹の底から楽しむなら目指すべきはマドリードとNY。ピカソというとキュビスムの角々したフォルムがまず思い浮かぶ。だが、グッゲンハイムにある‘水差しと果物鉢’をみると面食らう。立体感がなくじつに平板な作品。テーブルの布や果物、鉢を模ったシールをペタッと張り、その輪郭を太い黒線でとっていくとできあがる、という感じ。心を奪われるのがこの緑の面と黒の線がつくりだす明快な構成。My静物画の上位に登録している。
‘黄色い髪の女’はMoMAの‘鏡の前の少女’同様、魅了され続けているピカソの女性画。2013年、Bunkamuraでグッゲンハイム美展が行われたとき目玉に作品として登場した。ピカソに惹かれているのはこうしたやわらかい曲線で描かれた優しい女性。静かに眠るこの卵のような女性をずっとみていたくなる。
球体と直方体をうまく組み合わせた玩具的な人物が寄りそう‘水浴’には不思議な魅力がある。こういう形だと宇宙人が水浴をしているイメージにも広がっていく。小さな目鼻と口がほのぼのとしたムードをつくり、肩の力が抜けてくる。
マティス(1896~1954)は‘イタリアの女’の1点しかみたことがない。この絵は2004年東近美であったマティスの大回顧展でお目にかかった記憶がある。あれから14年経った。そろそろマティス展を期待したいところだが、はたして。