ブランド美術館の場合、自慢のコレクションがある。例えばプラド美ならボスとティツィアーノ、エルミタージュはレンブラントとゴーギャンにひときわ質の高い作品が揃っている。レンブラント(1606~1669)は専用の部屋に20点ぐらい飾られている。レンブラント好きな人は天にも昇るような気分になるにちがいない。
そのなかでとくに心を揺すぶられるのが画集に必ず載っている‘放蕩息子の帰還’、‘ダナエ’、‘女神フローラに変装したサスキアの肖像’。父が息子にみせる深い情愛がジーンと伝わってくる‘放蕩息子の帰還’に対して、‘ダナエ’はとてもドラマチックな作品。
ティツィアーノが同じ題材で描いたものではゼウスは部屋の上から降り注ぐ黄金の雨に変身してダナエと交わるが、レンブラントの絵ではゼウスはどこにいるのか?そう光に姿を変えてやって来る。ゼウスは色事となるといろいろ知恵がまわる。このあたりがじつに人間臭い。
ご承知の方もおられると思うが、‘ダナエ’は1895年大災難にあった。ひとりの青年が硝酸をかけたため頭部や手、足が大きな損傷を打けた。ダナエの裸体があまりに挑発的にみえたためこの男は瞬間的に過剰妄想の状態に陥ってしまった。美術館のなかでもときどき信じられないことが起きる。
3月森アーツセンターで開催される‘大エルミタージュ美展’(3/18~6/18)に出品されることが決まっているスルバラン(1598~1664)の‘聖母マリアの幼年時代’は記憶に強く残っている一枚。赤い服をきた可愛い女の子とまた会えるのが楽しみ。
ムリリョ(1617~1682)の‘犬と少年’も少年の笑顔が目に焼き付いている。日々の生活は決して楽ではないのにそれを微塵も見せず明るく元気に生きる少年の姿になにか救われたような気持になる。この絵画には強い力がある。