ラ・トウールの‘楽士たちのいさかい’(1630年 ポール・ゲッテイ美)
ブリューゲルの‘聖マルティンのワイン祭り’(部分 1567年 プラド美)
カラヴァッジョ(1571~1610)とラ・トウール(1593~1652)に強く惹かれているのは二人がとびっきりいい風俗画を描いてくれたから。プラド美で行われたラ・トウール展(2/23~6/12)にはその風俗画の傑作がずらっと揃った。まったく夢の絵画館に迷いこんだみたいで期待した作品がここにもあそこにも飾ってある。
‘楽士たちのいさかい’はLAのポール・ゲッティ美の自慢のコレクション、まだ縁のないLAで美術館めぐりをするときは追っかけリストの一番上にくるはずだったのがこの絵。よもやマドリードで対面するとは思ってもいなかった。人生何がおこるかわからない。
風俗画は描かれた世界が身近に感られるほど画面に引き込まれる。右の男は‘しょうがないなー、また喧嘩しちゃって。やめとけ、やめとけ’といっているようだし、左の老女は‘うちの父ちゃん大変なことになっちまったよ、痛めつけられないように、どうか神様助けて下さい!’と体をふるわせて祈っている。
プラドの常設展示室で真っ先に目指したのが1階の56A室、ここに2010年9月に発見されたブリューゲル(1525~1569)の‘聖マルティンのワイン祭り’が飾ってある。幅2.7mの大作。画像は新酒のワインを大勢の男たちがわれ先にと争って飲んでいる場面、ギリシャ神話のバッカスの話と同じようにお酒のピッチがあがると陽気な空気はだんだん乱暴になっていきはては喧嘩がはじまる。今、街では忘年会のまっさかり、この絵と似たような光景がときどきおこっていそう。
プラドのすぐ近くにあるティッセンボルネミッサ美は2度目入館、前回見逃した作品をリカバリーできればいいなと軽い気持ちだったが、地下の展示室でサプライズの特別展が開かれていた。なんとあのワイエス(1917~2009)の回顧展。これですぐ‘見るぞ’モードのスイッチが入った。
最も心をゆすぶったのがワイエスが35歳のときに描いた‘遥か彼方に’、NYのMoMAにある‘クリスチーナの世界’にみられる描写と同じように大地の草の一本々が丹念に描かれている。小児マヒで足が動かなかったクリスチーナは後向きの座った姿、そしてこの少女は膝頭を抱えて真正面をみすえている。こんないい絵みれたのは幸運だった。ミューズに感謝!