本を多く読む人でもそれほど読まない人でもいつも傍に置いときたい本があるはず。美術書は普通の本とちがって読むというよりは見るものだが、数多く揃えている日本画家の図録ですぐみれるようにしているのは横山大観、菱田春草、上村松園、鏑木清方、東山魁夷、そして加山又造の6人。
加山又造(1927~2004)の画業のなかで華やかで装飾性にあふれた作品が生まれたのは1965年から1970年あたり。‘春秋波濤’は琳派の真髄を現代感覚で表現した傑作中の傑作、同じ画面に春の桜と秋の紅葉を一緒に描きそのまわりをシャープで柔らかい波が自在に曲面を変化させながらうねっている。宗達や光琳がこの絵をみたら裸足で逃げるにちがいない。
小野竹喬(1889~1979)の‘宿雪’は代表作のひとつ、みていて心が安まるのは余計なものがばっさりそぎ落とされすっきりした構図になっているから。ここに描かれている春になり雪がとけて木々の根元に穴があく光景を実際にみたことはないが、この絵によってこの現象を‘根開け’ということを知った。
昨日関東は梅雨があけた。このタイミングでピッタリの絵が山口蓬春(1893~1971)の‘梅雨晴’、蓬春は紫陽花の名手。とくに心を打つのが明快な色彩、まるで家のまわりに咲いている本物の紫陽花が目の前にあるよう。