葛飾北斎の‘富嶽三十六景’をはじめとして、富士山は古くから多くの画家によって描かれてきた。明治以降でみると日本画家では横山大観、横山操、片岡球子、小松均、福王寺法林、そして洋画家の富士というと梅原龍三郎と林武がすぐ思い浮かぶ。
林武(1896~1975)の回顧展に残念ながらまだ縁がない。そのためこの画家のイメージは富士の絵と女性の肖像画でできあがっている。梅原の富士にくらべ、林の描く富士には圧倒的な存在感がある。目を見張らされるのは厚く塗り重ねられた油絵具と勢いのある筆さばき、崇高さと神秘性をたたえた富士山と気持ちをはりつめて向かい合っているよう。
東近美のコレクションで定番の抽象絵画に数えられているのが吉原治良(1906~1972)の‘黒地に白’、抽象絵画では作品のタイトルと表現されたものが一致しないことが多いが、このタイトルはわかりやすい。でも、イメージはいろいろ湧いてくる。白い部分がドーナツにみえたり、お好み焼きの白い生地にクルミのようなものがのっている?とか。別ヴァージョンに‘黒地に赤い円’があるが、惹きつけられるのはこちらのほう。
荒川豊蔵のやきものに魅了され続けているが、‘瀬戸黒金彩木の葉文茶碗’もお気に入りの一品、瀬戸黒は難しい技法なのに豊蔵は黒に金泥の木の葉を浮かび上がらせるという洒落た瀬戸黒を生み出した。抽象的でモダンな模様がはっとさせる黒織部に対して、この瀬戸黒は金彩が強いアクセントになっている。