やきものが好きなので陶芸家の回顧展には目をひからせている。現在、渋谷の松濤美で20年ぶりという‘石黒宗麿展’が開かれている。会期は残り一週間で31日まで。
昭和30年(1955)に人間国宝の制度ができたとき、富本健吉、濱田庄司、荒川豊蔵とともに認定をうけた石黒宗麿(1893~1968)、いつか代表作を集めた回顧展に遭遇しないかと思ってきたが漸くその願いが叶えられた。松濤美は小さな美術館だが、質のいいやきもの展をときどき開催してくれるので好きな美術館のひとつとなっている。
作品は全部で120点ほど、お気に入りはすっきりした絵付けと形のいい壺の姿が心をひきつける‘彩瓷柿文壺’、赤茶色でぽんぽんと描かれているのは吊るし柿、黒の横線は柿をつっている縄、小さいころ田舎の家ではこんな風に柿がつるされていた。郷愁をそそる絵画を見ているよう。
一瞬、濱田庄司の作品が頭をよぎったのが‘赤絵水指’、胴部に幅のひろい竹を使って斜めに勢いよくつけた赤の斑文とリズミカルにたらされた緑の点々が爽快な印象をあたえている。とてもモダンな文様だから、居間におくとほかの置物との親和性もすこぶるいいだろう。
この二つの壺が気分を晴れやかにする作品であるのに対し、‘鉄絵荒蕪文平鉢’と‘黒釉褐斑鳥文壺’は荒々しくて重厚なイメージが強い。こういう作品をみると宗麿の陶芸にたいする深い思いがもてる高い技術によって自在に生み出されている感じ。
黒釉の壺に描かれているのは燕、その形は古代中国の殷の遺跡から発掘された亀の甲羅や牛の骨に刻まれた甲骨文字を連想させる。宗麿は中国の古陶磁の研究に没頭したから、甲骨文字から刺激を受けたのかもしれない。