横山大観や上村松園のように日本画家の回顧展は何度も開かれるのに、洋画家の回顧展となるとその頻度はぐっと落ちる。岸田劉生を例外とすれば、黒田清輝、藤島武郎、青木繁といったビッグネームでも画集に載っている作品をたくさんみたという体験は本当に少ない。
そして、回顧展にまだ縁がない画家もいる。山本芳翠(やまもとほうすい、1850~1906)もその一人。好きな絵が2点ある。‘浦島図’と‘西洋婦人像’。1882年に描かれた‘西洋婦人像’は東芸大美へ通っているとときどき出くわすが、そのたびにガツーンとやられる。ヨーロッパ人と同じ土俵で日本の画家がこんな魅力的な婦人像を描いたのだと。白で描かれたドレスの筆触をみるとマネの白が頭をよぎる。
橋本雅邦(1835~1906)の‘竹鳩図’は2008年川越市美で開催された‘没後100年 橋本雅邦’でお目にかかった。竹がもやのなかにすっと立つ奥行きの感じられ画面に鳩が3羽描かれている。日本画らしいとてもやさしい絵。
雅邦の風景画では山々や岩がまるみをおび自然の雄大さが格調高く穏やかに表現されているのに対し、狩野芳崖(1828~1888)の‘懸崖山水図’は切り立つ崖が割れたガラスの三角形の破片が突き刺さっているような感じで人の侵入を阻む嶮しい山水のイメージ。