天才と呼ばれる画家はいつの世でもその作品の幅がとても広い、つまり画風がひとつにとどまってなくいろいろ変わっていく。小林清親(1847~1915)の作品は一世を風靡した光線画の風景版画だけでない。風刺画、動物画、戦争画、肉筆の歴史画、戯画、なんでも描ける。
清親のポンチ絵はこれまで何点かみたことがあるが、視線が釘づけになったのがはじめてお目にかかった‘眼を廻す器械’、この絵のアイデアはスゴイ!仕事が目が回るほど忙しいことは誰しも経験することではあるが、自分の目が器械によってぐるぐる回されているとは思わない。収税、学校教育など仕事が山ほどある下級官吏、こんなに目をぐるぐる回されたらストレスがたまって発狂してしまうのではないかと心配になってくる。
久しぶりにみた‘獅子図’、今回この正方形の画面に描かれたライオンをみてある絵が瞬間的に目の前をよぎった。それはNYのMoMAにあるアンリ・ルソーの‘眠るジプシー女’(1897年)にでてくるあの怖くないライオン、清親が描いたライオンも獰猛さは感じられない。清親とルソーがコラボしていることが不思議でならない。
清親が高い技を持っていることがより印象付けられたのはずらっと並んでいた肉筆画、‘親子龍之図’も思わず夢中になってみた一枚、龍の絵はこれまで数多くみてきたが、この絵のように親子が見つめ合うモチーフははじめてみた。感心するのは胴体が雲のなかに入ったり出たりしている様子がじつにリアルの描写されていること。この表現が光の画家、清親の真骨頂。
そして、最近発見されたという屏風絵‘那須与一 扇の的’(六曲一双、左隻)にも目を見張らされた。海はサントリー美の‘若冲、蕪村’に出品されている蕪村の‘山水図屏風’と同じ銀地。こんなすばらしい絵をみるとますます清親に惚れてしまう。
今回300点ちかくでてくる作品は前期(4/5~4/26)と後期(4/28~5/17)に分けて展示される。図録をみると後期にも気になる作品がいくつも登場する。また、足を運ぶことにした。