近代日本画家で猫をもっとも多く描いたのは誰だろうか、浮世絵師ならすぐ歌川国芳で決まりだが、正確な答えを出すには少し時間がかかる。手元にある作品情報でみると、菱田春草(1874~1911)が一番多いが、奥村土牛(1889~1990)と加山又造(1927~2004)も何度も描いているから断定はできない。
東近美で開かれた菱田春草展に出品された猫の絵は全部で8点、白い猫が2点であとは黒い猫。春草本にはプラス2点(ともに白い猫)載っている。ひとつは足立美でみたもの。すると10点、これに個人蔵などを考慮するとトータルで15点くらいかもしれない。
白い猫より黒い猫のほうが存在感があるのは黒猫のほうが目に鋭さを感じ、毛がふわふわした印象をうけるからだろう。このふわふわ感は美の巨人たちでその描き方を解明してくれたのでいっそう目が寄っていく。
ほかの画家の描いた猫でとくに身近なのは竹久夢二(1884~1934)の‘黒船屋’、この絵を部屋に飾っているので家で猫を飼っているいるようなもの。この黒猫、顔はみせてくれないが後ろ姿はとてもかわいらしい。色白でくりっと目をした女性に大きな手でやさしく抱かれているので幸せ気分だろう。
9年前鑑賞の予約をとって伊香保の記念館までクルマを走らせ長年の夢を叶えた。だから、この絵は特別の思いれがある。そして、それから2年後また予約をとり今度は‘五月之朝’と対面した。夢二式美人に心をとかされ続けている。
昨年東近美では竹内栖鳳(1864~1942)の回顧展があり‘班猫’の人気が沸騰した。くにゃっと曲がった体の柔らかさと青い目が忘れられない。じっと見つめる視線はやがて猫から女性なり、妖艶な香りを漂わせる。すごい目パワー!
加山又造(1927~2004)は家に猫を何匹も飼っていたようで、猫は得意のモチーフ。春草と同じく牡丹との組み合わせにしたり、この絵のように蝶々と戯れる猫の姿を描いている。2007年のオークションでは又造の‘猫ト牡丹’は1億5千万円の高値で落札された。