西洋画でも日本画でも数えきれないほどの視覚体験が積み重なっていくと、絵
画以外の小説や演劇、音楽、映画の情報とのつながりができてきて広い文芸・
アートの枠組みのなかで絵画芸術の真髄をとらえようと思いが芽生えてくる。
映画のDVDをよくみるようになって、‘物語の力’を意識するようになった。
近代日本画のなかにも誰もが知っている物語がいろいろ絵画化されている。小林古径(1883~1957)は絵巻のスタイルで‘安珍・清姫物語’と‘かぐや姫’の愛称で知られる平安時代の物語‘竹取物語’を描いている。絵画が好きになったお陰で、小さい頃覚えた竹から生まれた美しいかぐや姫の話をまだ繰り返し楽しんでいる。絵画が遠い過去のことを思い出させてくれ、かぐや姫に求婚する公達に課せられた高いハードルが何だったかチェックする時間までつくらせる。そして、‘物語の力’に感じ入る。
古径が表現したかぐや姫の昇天の場面は真にすばらしい。8月15日の満月の夜、月から派遣された使いの者たちに囲まれかぐや姫は悲しみをこらえ月へ戻っていく。新体操のリボンの演技をチームで心をあわせて行っているよう。この絵を所蔵しているのは京近美。2005年、回顧展(東近美)でお目にかかってから20年の時が流れた。また、みたくなった。平常展示でときどき飾られているのだろうか。
東博で定期的にみる機会がある前田青邨(1885~1966)の‘竹取’は、目前で昇天していくかぐや姫に驚き騒ぐ警護の者たちを各人各様の反応のまま生き生きと描いている。皆のサプライズの大きさがストレートに伝わってくるクライマックスの場面である。今村紫紅(1880~1916)の絵はまさに映画のワンシーンをみるよう。竹取翁が光り輝く竹を切ったところ玉のようにかわいい女児が現れた。竹のなかに赤ん坊がいるという発想はどこから生まれたのだろうか。