クプカの‘線、平面、奥行き’(バッファロー オルブライト=ノックス美)
現在、テートギャラリーのコレクションはテートブリテンとテートモダンの二つの美術館に分けて展示されているが、この姿になる前はテートギャラリー(今のテートブリテン)で一緒にみることができた。
20数年前はじめてここを訪れたとき、心を奪われた絵が3点あった。ピカソの‘泣く女’、ダリの‘ナルシスの変貌’、そしてエルンスト(1891~1976)の‘セレベスの象’、この怪物のような象が描かれた絵によってエルンストというシュルレアリストの存在を知ることになった。
この象、確かに下の太い足をみれば象かなと思うが顔はどこにあるのか、しっぽの先に噛みついているのは角を出した牛。黒い胴体は冬の時期にたくストーブを連想した。この象がなにを表しているのか、わかりようがないけれどシュールな絵をみるときは難しく考えないことにしている。右下の頭のない裸婦は象にむかって‘さあー、行くわよついてきて!’とでも言っているのだろうか。
パリのポンピドーでみたハウスマン(1886~1971)のオブジェは頭から消えない作品。木の質感が印象深く感じられるマネキンには金属製のコップが頭の上に置かれ耳のところには物差しがくっつけられている。これも一種のコラージュ、ここでハウスマンは人間の没個性をダダ的精神で表現している。
クレー(1879~1840)の‘赤いフーガ’はヴァイオリンが得意だったクレーならではの作品。まだお目にかかってなくいつかこの目でという思いは強いが、これはクレー家が所蔵しているものだからこの先も縁がないだろう。繰り返し、反復、変奏を特徴とするフーガのイメージが薄ピンクのグラデーションで表現された形のリズミカルな変化とピタッと一致する。
抽象表現で名を成した作家でお気に入りはモンドリアン、カンディンスキー、クプカ(1871~1957)。クプカの魅力は宇宙的な抽象美。‘線、平面、奥行き’を日本で開催されたオルブライト=ノックス美展をみたときはスペースシャトルに乗って無限に膨張する宇宙空間をつき進んでいるような気分だった。