ティントレットの‘水浴のスザンナ’(1555~56年 ウイーン美術史美)
レンブラントの‘スザンナと長老たち’(1636年 マウリッツハイス美)
カラヴァッジョの‘ユディトとホロフェルネス’(1599年 バルベリーニ宮)
アルテミーシア・ジェンティレスキの‘ユデイトとホロフェルネス’(1620年頃 ウフィツイ美)
ジョルジョーネの‘ユディト’(1500~05年 エルミタージュ美)
絵画を鑑賞してもっとも心が高揚するのは色が輝いている作品に出会ったと
き。その体験が強く目に焼き付いているのがウィーン美術史美でお目にかか
ったティントレット(1519~1594)の‘スザンナの水浴’。はじめて
の訪問ではまだティツィアーノとティントレットの区別がつかなかったので
こんなことにはまるで気がつかなかった。しかし、2003年のときは水浴
中のスザンナの体の白さに目が点になった。絵から少し離れてみてみ強く輝
いており、発光体のようだった。隠れて覗き見している二人の長老は心臓が
バクバクしたにちがいない。
レンブラント(1606~1669)が同じテーマで描いた作品ではスザンナはティントレットのように気品ある女性ではなく、どこか危険を感じ不安な心情が表情に現れている。悪事を企んでいるのは後ろに潜んでいる長老なのに、スザンナは鑑賞者の視線に怯えている。ルネサンスからバロックになると、画家の人物描写がリアルになり描く題材の物語性が観る側に生感覚で伝わってくるので、画面のなかにのめり込む度合いが深くなっていく。レンブラントはこういう表現が天才的に上手い。
か弱い寡婦ユディトが敵軍の将軍ホロフェルネスをやっつけ国を救ったという旧約聖書外典の話は何点も絵画化されているが、最初の出会いはエルミタージュ美でみたジョルジョ―ネ(1593~1652)の作品。穏やかな顔をした長身の女性が現れたなという感じだったが、視線を下に移すと青白くなった男の首を左足で踏んづけている。予想だにしない絵柄だから強い衝撃を受けた。
そして、‘ユディトとホロフェルネス’がバロックの画家に受け継がれると、その残虐性、暴力性は一段と強くなってくる。これがMAXに達したのがカラヴァッジョ(1571~1610)とカラバッジョ流の表現で注目を集めた女流画家、アルテミーシア・ジェンティレスキ(1593~1652)。知識や理屈をもとにして描かれたものより刺激が強くギョッとするくらいの方が好まれる時代になってきた。こうした超リアルな描写による風俗画的な作品が人々を楽しませているのである。