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Channel: いづつやの文化記号
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木版画家 ヴァロットンの魅力!

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Img     ‘版画愛好家’(1892年)

Img_0001     ‘入浴’(1894年)

Img_0003     ‘怠惰’(1896年)

Img_0004     ‘有刺鉄線’(1916年)

三菱一号館美が所蔵するヴァロットン(1865~1925)の版画作品、全部で187点あるそうだが、今回の回顧展(6/14~9/23)には60点あまりが展示されている。このなかに過去みたものが4点あった。

そのひとつが‘怠惰’、ベッドでうつ伏せになっている裸婦が手をのばして猫の顔を撫でている。この手と猫の体、そして尾っぽを結ぶラインが目にどんと入ってくる。これはモノクロの版画だが、油彩の作品として制作されていたとしたらこの絵以上に足がとまるだろう。

色がついた作品を想像してみると、誰の絵が思い浮かぶか、その画家はズバリ、マティス! ベッドの平板でありながら奥行きがあるようにもみえる描き方はエルミタージュにあるマティスの‘赤の食卓’のテーブルとよく似ている。ヴァロットンの魅力はこの絵にみられるように対象を斜めに配置して動きをつくりだすところ。

ベッドが斜めに置かれ、裸婦の手と猫はもうひとつの斜めのラインをつくる。そしてこの光景は部屋の天井から斜めに見下ろすかたちで描かれている。だから、ぱっとみると平板なイメージだがじつは立体的な空間のなかにいることになる。こういう発想は並みの画家の頭の中からは生まれてこない。

今回はじめてみる版画に多く遭遇したが、ロートレック(1865~1925)のポスターや油彩を意識させるものがいくつかあった。ロートレックそっくりだなと思わせるのが‘版画愛好家’、これも通りが斜めに走っている。その左端、シルクハットを被った男の体の半分は画面からはみ出している。そして手前の男たちの描き方がうまい。右はでっぷりした男が横を向き、その後ろを急ぎ足の人物が通り過ぎようとしている。この静と動の対比が見事!

‘裸婦’もロートレックが描く娼婦がダブってくる。この絵が印象深いのは画面の中央を横切るバスタブの曲線、女性がバスタブの縁に手をやっているのをみると入浴中というより小舟に乗っている感じ。タオルをもち横に立っているメイドの体の一部をカットするのはヴァロットンの常套手段。

最後の部屋に展示してあった‘これが戦争だ!’シリーズでは‘有刺鉄線’にぐっときた。これはまさに漫画、有刺鉄線にからまった二人の兵士、一人は太鼓腹をみせてひっくり返っている。顔をみせない兵士の死体を漫画チックに描くことで戦争のむごたらしさを浮き彫りにしている。


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