‘名所江戸百景 大はしあたけの夕立’(1857年 太田記念美)
‘六十余州名所図会 薩摩坊ノ浦 双剣石’(1853~57年 神奈川県歴博)
広重の風景画を常日頃一点でも多くみたいと思っているので、たとえば、
‘東海道五捨三次’シリーズが全部展示される特別展があると喜び勇んで出か
けた。また、‘木曽街道六捨九次’、‘六十余州名所図会’、晩年の傑作‘名所
江戸百景’についても運よくコンプリートできた。こうして広重との付き合
いがより深くなっていく。
‘東海道五捨三次’が横絵なのに対し、‘名所江戸百景’はすべて縦絵。風景を
縦の構図におさめるのは普通に考えるととても難しい。やはり横に広いほ
うが空間の大きさが感じられるからである。それを克服するため広重は描
き方をいろいろ工夫した。それが遠近を極端に対比させる画面構成。近景
を大きく描くことで絵に安定感を与えた。この拡大された近くのモチーフ
で目をしっかり安定させて、遠くの風景にもイメージを膨らませる。
もっとも惹かれるのはゴッホを魅了し模写までさせた‘大はしあたけの夕立’
と‘亀戸梅屋舗’。雨やモチーフの影がでてくるのは広重の風景画の特徴だが、
‘大はし’では大きな建造物である橋がドーンと意識されるので迫力のある風
景画になっている。‘亀戸’は梅の木の枝をメガネのようにして、遠くにいる
人々をとらえるというのがじつにおもしろい。そして、鳥の目線で描いた
‘深川洲崎十万坪’にも仰天する。大きく描かれた鷲が上から外界を眺めると
いう発想が斬新。
‘六十余州名所図会’にでてくる‘薩摩 坊ノ浦 双剣石’と‘甲陽猿橋之図’のお
陰で地元では有名な景勝を知ることができた。旅行がわが家では大きな楽し
みなので、いつかここを訪問することを夢見ている。‘猿橋’は縦に長い絵の
ほうが、橋のダイナミズムをより感じられるような気がする。