国宝 ‘扇面法華経冊子 歌枕梶の葉図’(12世紀中頃 四天王寺)
美術館で行われる展覧会へもう何年も出かけているが、エポック的な鑑賞体
験だったものは特別な思い出として強く心に刻まれている。2003年東博
で開催された‘西本願寺展’もそのひとつ。この頃は広島で仕事をしており、
東京に出張した際うまくすべりこんでみた。お目当ては国宝に指定されて
いる‘三十六人家集’。 美術本で装飾料紙の限りを尽くした冊子本の存在を
知りいつかこの目で思っていたが、ようやく夢が叶た。西本願寺所蔵の現存
する37帖全部でたのだから豪華きわまりない。残念ながら、展示替えで
すべてはみれなかったが、存分に楽しんだ。
どれも各種の染紙,唐紙が破り継ぎ、切り継ぎ、重ね継ぎといった技法が駆使
しされ、そこに金銀を使い草花や蝶、鳥、波など多様な文様で装飾され見事な筆で和歌が綴られている。思わず足が止まった‘重之集’、‘忠岑集’、‘仲文集’などを夢中になってみた。文学、工芸、美術における平安貴族の美意識の粋がここに結集しているといった感じ。まさに料紙装飾で‘最高の瞬間’!だった。
この家集はこのあとお目にかかったのは2度しかなく、みたのは8点
くらいだけ。東本願寺展(広島県美)で4点、そして奈良博で開催された‘美麗 院政期の絵画’で4点。2014年、2017年、東博と京博であった国宝展でも登場しなかった。これは西本願寺のお宝中のお宝だから、どっと出品するのは特別な機会だけなのだろう。だから、このときの鑑賞体験は一生の思い出となった。
広島の厳島神社にある‘平家納経’が全部みれたのも‘最高の瞬間’!だった。これは平清盛が発願者となり平家一門が全33巻を分担して書写し、一門の繁栄を願って厳島神に捧げられた法華経写経。華麗で豪華な装飾経に目がくらむが、お気に入りは‘薬王品’。女人と蓮池の向こうから三条の光明を発しながら来迎する阿弥陀如来が描かれている。此岸と彼岸をむすびつける幻想的な場面に大変魅了されている。大阪の四天王寺は一度訪問したことがある。ここにある‘扇面法華経冊子’は源氏物語絵巻を連想させる。とくに印象深い‘歌枕梶の葉図’は光源氏が幼い紫の上をみずから教育した話がかぶってくる。