2005年、京博で開催された曽我蕭白(1730~1781)の回顧展の
チラシに使われたキャッチコピーがふるっている。‘円山応挙が、なんぼのも
んじゃ!’。蕭白が言い放ったこの文句の意味は作品をみればすぐ納得がいく。
蕭白ほど表現意欲がバンバン伝わってくる絵師はほかにいない。エキセント
リックな描き方に一度嵌るともう蕭白の虜になってしまう。その最たる絵が
‘群仙図屏風’。たくさん登場する仙人は癖の強い人物ばかり。右隻(上)で
視線が集中するのが龍に乗る仙人。目の覚めるような青の衣装を着て卓球の
スマッシュを決めるようなポーズをとっている。可愛い唐子たちが描かれた
左隻(下)でおもしろいのは肩に蝦蟇を乗せ女に耳のなかを棒でかいてもら
っているグロテスクな男。このあくの強さ破天荒さは何なのか、という感じ。
生き物の表現も人物同様、観る者の意表をつく。大きな掛け軸に描かれた‘唐
獅子’は狩野派の唐獅子とはちがい、強さの感じられないユーモラスは表情を
している。これならゆるキャラコンテストに出ればどこかの県からすぐスカ
ウトされる。‘石橋図’もじつにおもしろい動物画。ディズニーの101匹わん
ちゃんの行進のように大勢の獅子たちが崖を登っていき上の石橋をめざし、
そこから谷底深く落下していく。この絵は忘れられない。以前はバークコレ
クションだったが、現在はメトロポリタン美におさまっている。
前は神戸にあった香雪美は大阪の中之島に移っているので、いつか‘鷹図’と
再会できるのではないかと期待している。鋭い目をした鷹と下の秋草のなか
に身を隠す鶉の対比が印象的である上に全体に色彩の美しさが際立っている。
蕭白は荒っぽいだけでなく色彩の美にもとても敏感。
京都の久昌院にある‘山水図’は北宋の山水画を彷彿とさせる。注意深くみる
と前景と遠景で墨の濃淡をうまく描き分けているのが見事。楼閣も同じよう
な調子で表現されてる。そして、遠くの山々は曲線でやわらかく、手前の
楼閣は角々しているので硬軟が融合していることにも魅了される。