‘日の出を探し求める盲目のオリオン’(1658年 メトロポリタン美)
‘サビニの女たちの略奪’(1637~38年 メトロポリタン美)
‘ティトゥス皇帝のエルサレム征服’(1638年 ウィーン美術史美)
西洋絵画に心が向かっていくとそれと並行してクリスチャンでもないのに聖書
の話やギリシャ神話の神々や英雄の物語にも興味が沸いてくる。そうすると、
その物語のイメージが絵の題材に選んで視覚化した画家の画風によって定着し
てくる。本で読んだことが絵画によって立体化される、このサイクルを繰り返
すとキリストの物語、神話の世界との距離が縮まり文学と絵画が豊かに融合さ
れていく。これは歴史におけるエポック的な出来事が絵画化されるときにも同
じことがおこる。
ニコラ・プッサン(1594~1665)は宗教画・神話画、歴史画の両面で
強い画力を発揮したバロックの画家である。最初の出会いはルーヴルにある有
名な‘アルカディアの牧人たち’。この絵によって‘アルカディア’、古来、神話や
詩にうたわれてきた理想郷のイメージが頭になかに入った。プラド美にある
‘パルナッソス山’は思わず見惚れてしまう大傑作。パルナッソス山は芸術と文学
の神アポロンが住んでいるところ。プッサンは9人の詩人が訪れる場面を描い
ている。
プッサンが大画家だということがだんだんわかってきたのは、ルーヴルをはじ
めとして世界のブランド美術館に足を運ぶとよく遭遇したから。たとえば、
ルーヴル(20点)、エルミタージュ(12点)、プラド(8点)、メトロポリ
タン(5点)、ロンドンとワシントンのナショナル・ギャラリー(ともに4点)、そして、シカゴ、フィラデルフィア、ボストン、ドレスデン国立美、ウィーン美術史美、プーシキン(各1点)にもある。
メトロポリタンで惹かれるのが巨人の狩人オリオンが登場する‘日の出を探し求
める盲目のオリオン’。キオス島の王に目をつぶされたオリオンが昇る陽の光を
求めて森のなかを歩く姿が描かれている。太陽の光を浴びて視力を回復し王に
復讐しようと島に行くが、逃げられてしまった。目が点になるのが肩に乗せて
いる道案内役のケダリオン。ふとガリバーが目の前をよぎる。
プッサンは本籍地フランス・ノルマンディ―、現住所イタリア・ローマの画家。
1624年ローマに移り、以降ずっとここで暮らした。そのため、古代ローマ
の話を題材にいくつも歴史画を描いている。‘サビニの女たちの略奪’はルーヴル
にもあるが、こちらのほうが印象深い。泣き叫ぶ赤ちゃんが目に焼きついている。激しい劇的な力が心を突き動かす‘ティトゥス皇帝のエルサレム征服’の前でも体がすぐフリーズした。