ヴェネツィア生まれのカルロ・クリヴェッリ(?~1494)に嵌る人は結
構いる。この画家の描く刺激的な聖母をみたらゾクゾクっとする感情が抑え
きれず、‘聖母子’もその例にもれない。顔はツンとして冷たいイメージで異様
に長い手の指がマニエリスムの描写を先取りするような印象をうける。この
画家の絵はどこの美術館でもみられるというわけではなく、これまで縁があ
ったのはMETのほかはアカデミア美、ブレラ美、アムステルダム国立美、
ロンドンのナショナルギャラリー。
ピエロ・デ・コジモの絵をみる機会はごく限られている。これまでみたという
実感があるのはナショナルギャラリーにある‘プロクリスの死’くらいしかない。
この画家は半身半獣と生き物を主役にするのが好きでこの絵ではパンや猟犬が
でてくる。メトロポリタンが今回出品してくれた‘狩りの場面’では森に棲む動
物をケンタウロスたちが次々と仕留めていく。怪奇的で暴力的な空気が濃密に
漂っているので腰がちょっと引き気味。この絵もジェローム同様、NYでみた
覚えがない。だから、大収穫の一枚。
イタリアのウフィツイで目が慣れたフィリッポ・リッピ(1406~1469)
の‘王座の聖母子と二人の天使’と再会できたのは嬉しいかぎり。ここに描かれ
た幼子キリスト、聖母、そして天使は皆ポチャッとした丸い顔をしており、
気軽に声がかけられそう。こちらをじっとみているキリストは神の子の気がし
ない。クラーナハ(1472~1553)の‘パリスの審判’は以前みたとき
すぐ二重丸をつけた作品。人物の配置関係がおもしろい。眠りから覚めたパリ
スの前に立つ裸体の3女神は体の向きがちがっている。なんだか一人の女神が
ぐるっとまわっているよう。そのちょっと妖艶な姿はクリヴェッリの聖母の
進化形のような感じ。
アメリカの美術館でヨーロッパのようにルーベンス(1577~1640)の
見上げるような大きな絵をみたことはない。だから、今回やって来た‘聖家族と
聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者聖ヨハネ’のような中型サイズの
ルーベンスの名画がみれると大きな満足が得られる。視線が集中するのが光が
あたる赤い衣服に身をつつむ聖母と聖母の膝の上にいる幼子キリスト。流石、
メトロポリタンでいいルーベンスをもっている。