好きな女性の絵ならルノワールとマネがスペクトルのど真ん中にいるのは間
違いないのだが、そのすぐ近くにも何人かの画家がいる。そこには写実的な
描写で気を惹く女性がいる一方、ピカソの愛する人をモデルした肖像画も強
い磁力を放っている。その筆頭が1932年に描かれた‘夢’。
2013年の頃、たまたまみていたTVの番組に‘高額絵画ベスト3’というの
がでてきた。1位 セザンヌの‘カード遊びをする人たち’ 246億円
2位 ピカソの‘夢’ 153億円 3位 ポロックの‘No.5 1948’ 138
億円 (注)セザンヌの絵はオルセーとコートールドにある作品のもうひと
つのヴァージョンでアラブの富豪がオークションで落札したもの。以前から
‘夢’の柔らかな造形と色彩の美しさに魅了されていたので、この値段は即納得。
‘夢’と同じ調子の‘黄色い髪の女’のモデルは同じ女性でオルガのあとピカソが
夢中になったマリー・テレーズ。ふたりが出会った1927年のとき彼女は
17歳だった。恋多きピカソにとって4番目の女性。マティスはこの絵に刺激
されてよく似た‘夢’を1940年に制作している。2013年にBunkamuraで
開催されたグッゲンハイム名品展に目玉の絵として出品されたのを機に、
ピカソとマティスが同じテーマでコラボしたことを知った。
‘ドラ・マールの肖像’に魅了され続けている。とくに惹かれるのは顔と手の黄
色、黒の衣服がこの明るい黄色を浮き上がらせている。ドラ・マールはユダヤ
系の血をひくユーゴスラビア人の写真家。シュルレアリスムの芸術家とも交際
があり、知的でなかなかの美人。スペイン語も上手に喋れるから1936年
以降ピカソの恋人になった。鼻や目の描き方はキュビスム流だが、‘アヴィニ
ョンの娘たち’にくらべるとオーラと華やかさが格段にそなわっている。
MoMAにある‘鏡の前の少女’で左側の鏡に映る自分の姿をみている少女はマリー
・テレーズがモデル。この絵の魅力は大小の円や楕円形が目に心地いいこと。
ピカソの絵はややもすると角々するフォルムが重たくのしかかってくるが、
これは‘夢’の絵同様リラックスしてみられる。‘読書’の女性もマリー・テレーズ。
ここでは彼女の顔は彫刻のように表現されており、全体的にボリューム感に満
ちている。‘太陽の塔’をつくった岡本太郎はこの顔に影響されたにちがいない。