‘エトルリアの壺のある室内’(1940年 クリーブランド美)
これまで訪問した海外の美術館でマティスの絵をたくさんみたという印象が
強く残っているのはパリのポンピド―センター、市立近美、サンクトペテル
ブルクのエルミタージュ、NYのメトロポリタン、MoMA、ワシントンの
ナショナルギャラリー、そして近いところではコペンハーゲン国立美。
ほかにはまだ足を運んではいないが、日本の美術館で開かれる名品展にマテ
ィスをよく出品してくれるモスクワのプーシキン美。また、1994年に西洋美で披露されたバーンズコレクションにも多くのマティスがふくまれている。
バーンズコレクションのあとマティスの魅力をさらに実感させてくれたのがポンピドー、1997年東京都現美ですばらしいコレクションがどっと並んだとき圧倒的な存在感を発揮していたのが‘ルーマニアのブラウス’。この肖像画に大変惹かれるのは平板な人物描写なのに背後の赤一色がふわっとしたルーマニアのブラウスを着た女性をどんと押し出しているような気がするから。また体をちょっと斜めにして動きをつくっているのもいい。こういう単純な色と構図で女性にインパクトをもたせるのは才能に恵まれた者の絵筆からしか生まれてこない。眠る女性が画面の大半を占める‘夢’も一度見たら忘れられない作品。右手はしっかりみると変だが、視線が目を閉じた顔に釘づけになるので大丈夫。女性の眠る姿を描いたものはレーピンにもある。そして、歌麿は幼な子が夢の中で悪魔におどかされる場面を描いている。
エルミタージュで大きな楽しみは充実したレンブラントとマティスのコレ
クション。‘赤い部屋(赤のハーモニー)’は2012年におこなわれた名品展
に登場した。ここでも赤が目にどんと飛び込んでくる。部屋の床、壁、テー
ブルの上はみな赤で彩られ境がなく広い色面になっており、そこにデザイン
化された黄色の果物、花の枝が華やかに配置されている。この赤の圧の強さ
を薄めているのがお得意の窓の外にみえる緑の風景。‘家族の肖像’にも魅了
され続けている。じつにぺたっとした絵だが、ペルシャの細密画や織物を
連想させる装飾的な模様が部屋の雰囲気を明るくしている。じっとみている
と左上のマティスの妻のアメリ―はいいとしても、チェッカーに興ずる2人
の息子の足元の絨毯がこちらにずれ落ちてくるようにみえてしょうがない。
アメリカの美術館にはマティスの名画が点在している。そのひとつがクリー
ブランド美が所蔵する‘エトルリアの壺のある室内’。この部屋もどこから壁か
わからないが、椅子に掛けた女性が大きな壺や緑の葉っぱに囲まれ正面から
とらえられているので、和やかな気分で対面できる。これは東近美の大回顧展
でお目にかかった。