プッサンの‘朝日を捜す盲目のオリオン’(1658年 メトロポリタン美)
プッサンの‘サビニの女たちの略奪’(17世紀 メトロポリタン美)
プッサンの‘キリストの洗礼’(1641~42年 ワシントンナショナルギャラリー)
ベラスケスの‘ファン・デ・パレーハの肖像’(1650年 メトロポリタン美)
ベラスケスの‘縫い物をする女性’(1640年 ワシントンナショナルギャラリー)
海外の美術館をまわっていると時々まったく情報がなかった展覧会に遭遇す
ることがある。たとえば、2008年3月メトロポリタンを訪問したとき
開催されていたプッサン(1594~1665)の回顧展もそのひとつ。
この年はプッサンの当たり年。1月ルーヴル、ロンドンのナショナルギャラ
リーで有名な‘アルカディアの羊飼いたち’など合わせて24点鑑賞し、アメ
リカではこのプッサン展で39点、そしてシカゴ美、ワシントンナショナル
ギャラリーでもお目にかかったから、総数でいうとなんと73点ものプッサ
ンの絵をみたことになる。これでプッサンに開眼した。
メトロポリタンには5点のプッサンがあるが、回顧展にでていたのは‘朝日を
捜す盲目のオリオン’。右に描かれている巨人がオリオン。美男の狩人だった
が、キオス島で王の娘に恋したが島の野獣を殺せと難題をつきつけられる。
これをクリアしても王はうんと言わず、オリオンに酒を飲まして酔わせ眠っ
ている間に眼をつぶしてしまった。オリオンは日の出の時に太陽の陽を浴び
れば目が見えるようになるとの神託を得た。この場面は肩に案内役のケダリ
オン少年を乗せて東に向かって歩き出すところ。この巨人もガリバーのよう
に馬鹿デカいし、頭の上にいる月の女神ディアナが雲に肘をついているのが
おもしろい。
常設展示に飾られていた‘サビニの女たちの略奪’は多く描かれた歴史画や宗教
画のなかでは人気の作品。この主題はもう一枚別ヴァージョンがあり、ルー
ヴルに展示されている。ここでは古代史の有名なエピソードが再現されており、
ローマの支配者ロムルス(左上)はサビニ族の未婚の女性たちを略奪するため
に上着を持ち上げて行動を促している。女たちの悲鳴が聞こえてくるようで、
老人や赤ちゃんの悲しそうな顔が目に焼きついている。ワシントンのナショナ
ルギャラリーにあるプッサンは4点、ガイドブックに載っているのが人物が横
にずらっと並ぶ‘キリストの洗礼’。
プッサンの5年後に生まれたのがスペインの大画家ベラスケス(1599~
1660)。ベラスケスが描いた肖像画でマドリードのプラド以外の美術館で
みて感動した絵が2点ある。ローマのドーリア・パンフィーリ美蔵の‘教皇イン
ノケンティウス10世’とMETにある‘ファン・デ・パレーハの肖像’。2点
とも2回目のイタリア滞在中に描かれた。スペインにいるときは宮廷画家とし
てフェリペ4世をいい男に描くため脚色をしなくてはいけないが、イタリアで
なら自由に人物をとらえられる。下僕兼助手のパレーハをみたときは目の前に
本人がいるような感じだった。これをみるとベラスケスの凄さがわかる。
この生な感覚は天才にしか描けない。ナショナルギャラリーの‘縫い物をする女
性’はパレーハ同様自然な姿で描かれているのがとてもいい。