イングランド中部のダービーに生まれたライト・オブ・ダービー(本名
ジョセフ・ライト 1734~1797)は光の表現が心に響く画家なので、
カラヴァッジョ、レンブラント、ラ・トゥール同様特別な思い入れがある。
でも、これまでお目にかかったものは少なく密着度からいうとカラヴァッ
ジョらとくらべると遅れをとっている。これを解消するためにはどうして
もイギリスの美術館をまわる回る必要がある。
‘空気ポンプの実験’は見事な‘燭光(キャンドルライト)画’、老いた学者が空
気ポンプを使ってガラス球を真空状態にしてなかの小鳥を窒息死させて空気
の存在を証明しようとしている。その緊張した表情と鳥を痛ましげに目をそ
むける少女の感情表現との対照がおもしろい。光と影のコントラストが強く
印象に残る絵のイメージは宗教を題材にしたラ・トゥールを彷彿とさせるが、
科学者の実験の場面を描いているところはニュートンがおり産業革命が起こ
した大英帝国の画家らしい。
ライトは鉄工所の情景を5枚描いている。‘塊鉄炉’は水力を利用した当時と
しては進んだ方法で鉄が鍛えられているのを家族が見守っている場面、目を
傷つけないよう顔をそむけている。‘鍛冶屋の仕事場’と‘外から見た鍛冶屋の
光景’も思わず見入ってしまう。光源となっている白熱した鉄に男たちがハン
マーをガツーンと打ちつけているのは日本画の川端龍子の絵にもあるが、
この光の描写には叶わない。ちょっと引いたアングルから鍛冶場をとらえ、
熱した鉄からでてくる光の明るさを少し落とし雲間からさす月の光とうまく
コラボさせた作品にも魅了される。この絵は9年前に開催された定番のエル
ミタージュ名品展に出品された。
‘ブルック・ブースビーの肖像’はテート美にあるもっともいい男性肖像画かも
しれない。森のなかで横たわる姿が一際大きく描かれている人物はフランス
のルソーの友人でもあった作家のブルック・ブースビー。彼はイギリスに
自然回帰を訴えるルソーの思想を広めた。手に持っているのはルソーの著作。