近代絵画をジャンル別の好みで順番をつけると女性を描いたものがドンと真
ん中にあって、そのまわりを風景画とシュルレアリスム絵画、抽象画が囲む
構図になっている。そのため、ご存知のようにとりあげる作品は女性の肖像
画が大変多くなる。そのこだわり女性画の名手たちの筆頭にいるのがルノワ
ールとマネ。この二人は毎日でもみていたい女性を描いてくれるが、その
一方でときどきはじっとみつめたい気になる画家もいる。キース・ヴァン・
ドンゲン(1877~1968)もそのひとり。
オランダのロッテルダム出身のドンゲンは20歳でパリに移住し、エコール・
ド・パリンの画家として活躍した。フォーヴィスムの運動にも参加し1906
年にはモンマルトルの‘洗濯船’に住みピカソらと交流している。そのカラリス
トぶりが際立つのが‘黒い帽子の女’、これを飾っているのはサンクトペテルブ
ルクのエルミタージュ美。画家の名前は知らなかったが、緑の衣服と大きな
黒い目に惹きこまれた。女性の絵はルノワールだけじゃないことを思い知ら
された。
ゴッホ美で遭遇した‘画家の妻、ヒュース・プライティンゲルの肖像’もお気に
入りの絵。背景に目の覚める赤を使い、青のドレスを着た女性の色白の肌を
浮き上がらせている。色彩の力によって女性を生き生きと描写するアイデア
はドンゲンが同じオランダ生まれゴッホの強烈な色彩に強く触発されたこと
を物語っている。赤い唇と大きな目にくらっとくる‘白い服の婦人’も忘れら
れない。これはホテルニューオータニのなかにある美術館(現在は無し)で
お目にかかった。大谷コレクションは10年くらい前?売却されたという話
を聞いたが、今この絵はどこにあるのだろう。
ドンゲンは第一次世界大戦後は社交界に出入りし、上流階級の女性たちを描く
流行の肖像画家として知られるようになる。‘スフィンクス’は画家48歳のと
きの傑作。これほど華麗な女性に描いてくれたらモデルは一段ステップアッ
プしたような気分になるだろう。‘ポーレット・パックスの肖像’は等身大を
こえる見度な肖像画。毛皮をまとった女優は肌を出し決めポーズで立ってい
る。目鼻立ちのぱっちりした小顔の女性が装飾的な画面構成により一段と輝
いている。