‘日傘を持つブルターニュの女たち’(1892年 オルセー美)
ナビ派の画家たちに刺激を与えつづけたのがブルターニュ地方のポン=タヴ
ァン時代のゴーギャンとエミール・ベルナール(1868~1941)。
ベルナールはゴーギャンの20歳も年下だったが、二人は総合主義という新
しい絵画の創造で意気投合しパリの美術界に新風を巻き起こした。ベルナー
ルが20歳のとき描いたのが代表作の‘愛の森のマドレーヌ’。モデルをつと
めているのは17歳の妹マドレーヌ。目を惹く構図が印象的で、寝そべって
いるところの向こう側には細い幹の木々が巧い具合に配置され奥の小川へと
視線を誘導している。この川とマドレーヌの横たわる姿からミレイの‘オフィ
ーリア’がふと目の前をよぎる。
‘日傘を持つブルターニュの女たち’は平板な人物描写が子どものお絵描きを
連想させる。女たちの立ち姿や座っている形態を別の紙で輪郭線をひいて作
成し、それを切りとって画面に丁寧に貼っていく。そのあと同じやり方で
日傘と背景の半円の山も用意してしっかり糊づける。最後に緑の木や空の白
い雲を描いて出来上がり。こういう日本の浮世絵の表現方法の影響をうけて
生まれた奥行き感のない絵画は当時の美術ファンにとっては衝撃的だったに
ちがいない。
2018年、北欧旅行の最初の訪問地だったデンマークのコペンハーゲンで
は自由時間を使ってニューカールスベア美にでかけた。お目当てはゴーギャ
ンの絵だったが、そこにベルナールの‘果物をとる女たち’が飾ってあった。
この絵も‘日傘をもつ’と同じタイプの作品で横に並ぶ女たちと木にはボリュー
ムがなく二次元の垂直性の細い面によって画面が構成されている。
同じ年に描かれた‘草上のブルターニュの女たち’は草のリアリテイがないため、
大勢いる女たちが日本画でよくみる水や池のないところで泳がされる鯉のよ
うな感じがする。おもしろいのが手前の右隅の女の顔、目がつり上がり怒っ
ているよう。ゴーギャンにもこういう顔の女性が登場するからベルナールは
それを意識したのかもしれない。‘ふたりのブルターニュの少女のいる風景’は
水平な線のイメージが消え野原を緩く曲げたり花や木を斜めに並べることに
よって画面に変化をつけている。