‘諸芸術とミューズのいる聖なる森’(1884~89年 シカゴ美)
イタリアのローマは楽しい思い出がいっぱいつまった街であるが、最大の喜
びはヴァチカン・システィーナ礼拝堂に描かれているミケランジェロの大壁
画とそこへたどりつく手前にあるヴァチカン宮殿の部屋を飾るラファエロの
‘アテネの学堂’などがみれたことである。タブローもいいが目の前に広がる
大きなフレスコ壁画をみるのは人生における最も幸せな瞬間かもしれない。
この最高の瞬間が味わえるのではないかと思っているのがフランスの
シャヴァンヌ(1824~1898)がパリのパンテオンやリヨン美などの
主要な建造物に手がけた記念碑的な壁画装飾の数々。アバウトな旅行計画だ
が、パリを再訪する機会があったらローマでカラヴァッジョとベルニーニを
追っかけたようにシャヴァンヌの壁画巡りを実現させようと思っている。
2014年、Bunkamuraと島根県美で日本ではじめてとなるシャヴ
ァンヌ展が開かれた。シャヴァンヌで誰だっけ?という美術ファンが多くい
るなかでよくぞこれだけの作品を世界の美術館から集めてきたなと感心させ
られる立派な回顧展だった。これだからBunkamura通いはやめられ
ない。真に企画力のある美術館である。‘諸芸術とミューズたちの集う聖なる
森’は理想郷の代名詞となったギリシャのアルカディアの牧歌的な情景を聖な
る森という場面にして美しいミューズたちと擬人化された諸芸術を登場させ
見事に描いている。これはリヨン美階段の壁画装飾を制作したあとその縮小
版をつくったもの。
‘労働’と‘休息’はパリの北の方向にあるアミアン・ピカルディ美の階段に描か
れている壁画の縮小作品で回顧展に出品された。2013年ワシントンに行
ったときこの2点ともう1点みた。アメリカではフィラデルフィア美で3点、
メトロポリタンで5点、こんなにシャヴァンヌがあるのだからこの画家の
人気の高さがうかがえる。
‘夢’は以前のオルセーの展示レイアウトだと1階のシャヴァンヌルームに飾ら
れており、‘夏’は玄関ホールにあり無料でみれた。現在はどこにおちついた
のだろうか。幻想的な‘夢’に大変魅了されている。月光の映える岸辺で旅人の
男が眠っている。空中を舞う3人の乙女が手にもっているのは左からバラの
花、月桂冠、金貨。それぞれ‘愛’、‘栄光’、‘富’を象徴している。さて、男に
どの徳をとるか、選択を迫っている場面が描かれている。