ベルギー象徴派にはクノップフ(1858~1921)のほかにもうひとり
スゴイ画家がいることを知ったのは2005年Bunkamuraで開催された‘ベルギ
ー象徴派展’。刺激の強い作品が多く並ぶなか思わず足がとまったのが‘死せる
オルフェウス’。描いたのは作品のプレートによるとジャン・デルヴィル
(1867~1953)という画家だった。これが深く心に刻まれたのはギリ
シャ神話に登場する竪琴の名手オルフェウスの悲運をよく覚えていたことも
関係している。
事故で失った最愛の妻エウリュディケを冥界から連れ戻すことに失敗したオル
フェウスは地上の戻ったあとは一切女を寄せつけなかった。このかたくな態度
がトラキアの狂女たちの怒りを買い、八つ裂きにされ川に投げ込まれてしまっ
た。デルヴィルはこの話を竪琴が星座になった宇宙を舞台にして神秘的に描い
ている。オルフェウスの顔が綺麗なこと!
デルヴィㇽと出会った同じ年にベルギーを旅行し王立美でこの画家の作品をみ
た。だが、ギョッとする目をした女性の肖像画はあったが、お目当ての代表作
‘サタンの宝物’はどういわけか姿を現してくれなかった。6年後、ここを再訪
したがまたこの絵は展示されてなかった。同様にダリの‘聖アントニウスの誘惑’
にも2度ふられたからダブルショックだった。
宗教と芸術の同一性を主張するデルヴィルの世界は幻想的で神秘にみちている。
モローの作品にも古代神話を題材にしたものが多いが、デルヴィルはギリシャ
神話やキリスト、ワーグナーの歌劇のテーマにして光の繊細な表現やモチーフ
の細密な描写により芸術の理想的な美を極める作品を生み出していった。
‘パルジファル’はワーグナーの歌劇で同名の主人公が聖杯をもとめて展開する
騎士物語。この場面は聖杯が輝き光が降り注いでいるところ。‘栄華を司る天使’
も光の描写と乙女チックな天使が印象的。
‘大天使’をみるたびに映画‘羊たちの沈黙’(1991年)で殺人鬼レクター
(アンソニー・ホプキンス)に殺された警備の警官が両手を大きく広げて天井
から吊り下げられていたシーンを思い出す。この映画はなんと9/8(水)の
BSプレミアム(午後1.00~2.59)に登場する。映画好きの方はお見逃
しなく!‘エレウシスの女たち’は大地と豊穣の女神デメテールからお告げを受け
た3人が描かれており、そのまわりを紫の花々が過剰ともいえるほど装飾的に
とり囲んでいる。