東芸大美が所蔵する絵で芳崖の‘悲母観音図’とともにお宝中のお宝なのが上村
松園(1875~1949)の代表作‘序の舞’。息を呑んでただただ見つめる
絵というのはそうはない。もし、100年後の日本人が日本美術史を通覧したと
き女性を描いた作品で5点選ぶとしたら、おそらく‘源氏物語絵巻’、歌麿の美
人大首絵とともにこの絵をあげるにちがいない。そして、古典画の‘草紙洗小
町’も候補作にリストアップされるだろう。
この2点と三の丸尚蔵館にある‘雪月花‘がMy松園ベスト3。松園のスゴイとこ
ろはどの美人画にも惹かれること。平均的な絵、ファンからみればいわゆる
駄作がないのである。女性の優しさ、端正な美を感じさせる松園を聖母の画家
ラファエロに重ね続けている。
松岡映丘(1881~1938)の‘伊香保の沼’の存在を知ったのは10年ぐ
らい前。確か芸大コレクション展でお目にかかった。岩の上にすわりうつろ
な表情をしている女性をみて瞬間的に頭をかすめたのが鏑木清方の‘妖魚’。
清方の人魚のほうが5年前先に描かれているので映丘はこれに触発されたのか
もしれない。
伊東深水(1898~1972)の美人画は女性を画面のなかで大きく描くの
が特徴。そのため、女性の姿態や顔の表情が強く印象づけられる。ところが、
‘銀河祭り’は例外的に松園や師匠の清方の描き方に似ており、裁縫が上達するこ
とを願い七夕の夜に縫い針に糸を通している女性にしっかり感情移入ができる。
高山辰雄(1912~2007)の‘砂丘’は東京美術学校の卒業制作。砂丘と
女学生を組み合わせる発想がユニーク。