絹谷幸二の‘フランチェスカとゾッテイ氏の肖像’(1987年)
世田谷美のアンリ・ルソーコレクションとの関連で忘れられない作品がある。
それは和歌山県田辺市の出身で今年100歳になる稗田一穂(1920~)
が描いた‘豹のいる風景’。これはルソーは好きの人なら思わずのけぞるはず。
‘ありゃ、日本のルソーがいた!’と。ルソーが豹やライオンや蛇を登場させ
緑の多彩なグラデーションを使って描いた熱帯の森林の光景と完璧に重なる。
ルソーに嵌ったとはいえ稗田は日本画家。若い頃は西洋画の描き方を貪欲
に吸収し、加山又造と同様に動物画を得意としていた。
絹谷幸二(1943~)は今年77歳、そろそろ文化勲章をもらう時期だと
思うが来年に期待したい。1987年の作品‘フランチェスカとゾッティ氏の
肖像’がここにある。どの画家でも先人たちからいろんな刺激をもらう。
それがどんなものだったかを勝手に想像するのはおもしろい。首だけのゾッ
ティ氏をみるとシャガールを連想する。そして、横向きのフランチャス
カの口からでている吹きだしはもちろん日本のライトカルチャーの漫画の
影響。地面の穴が黒で塗りつぶされているのはなぜかデ・キリコの作品で
広場にできた銅像や建物の影につながっていく。
2008年、練馬区美であった高山辰雄(1912~2007)の回顧展
でお目にかかったのが‘星辰’。高山が描く人物描写は独特。5人の女性たち
の髪の毛にはまるで雪がかかっているよう。背景はそれとわかるようなもの
ではない。日本画ではお馴染みの水がない空間を鯉が動くようなもの。しか
も、背景と女性たちが着ている衣服の色は同じうすい茶褐色。この色と右の
2人が身につけている服の白のコントラストがじつにいい。そして、右上に
小さな星が光っている。そうか、髪の白は星の光が反射しているのだ。
世田谷美は北大路魯山人(1883~1959)のやくものをたくさん所蔵
していることでも知られている。いつもみられるかは忘れたが、平常展示
の部屋をまわったとき出くわしたような記憶がある。ここの魯山人に遭遇し
たのは15年前、川崎市岡本太郎記念館であった‘北大路魯山人と岡本家の
人びと’展。大変魅了されたのは‘色絵雲錦大鉢’と‘椿文鉢’。どーんと描かれた
この桜と椿の色と形が以後魯山人のやきもののイメージになった。