尾形乾山の‘白泥染付彩芒文蓋物’(重文 江戸・18世紀後半)
リニューアルしたサントリー美では現在‘日本美術の裏の裏’(9/30~
11/29)という奇妙なタイトルがついた特別展が開催されている。ここは
予約の必要がないので久しぶりに出かけてみようかと思ったりもするが、
一方でまだ慎重にしていたほうがいいという声も聞こえてくる。こうしたも
どかしい展覧会状況がずっと続きそう。
サントリーが2007年六本木の東京ミッドタウンに移転してから前より足
を運ぶ回数がぐっと増えた。ここの企画展の特徴はやきものやガラス作品な
ど工芸関連のものが多いこと。例えば、奇跡的ともいえる薩摩切子展や紅型
展といった心に沁みるものに遭遇できたことは生涯の思い出となっている。
所蔵するお宝の筆頭は国宝の‘浮線綾螺鈿蒔絵手箱’。整然と並んだ円文から
発せられる薄緑やピンクの光を視線の角度を変えて感じとる楽しみを一度味
わったらもうこの手箱の虜になる。京都や奈良の神社や寺を訪問しなくても、
サントリーと畠山へ行けば螺鈿の美しい輝きを目に焼きつけることができる
のだから恵まれた美術環境のなかにいる。
金襴手様式の見事な‘色絵花鳥文八角大壺’にも魅了される。これはヨーロッパ
へ輸出するためにつくられたもので龍や鳳凰など中国の意匠をつかって王侯
貴族の心をがっちりとらえた。野々村仁清の京焼の200%参っているので
‘色絵七宝繋文茶碗’のような洒落たデザインにもすぐ反応する。忘れられない
一品。モダンな意匠感覚という点では尾形乾山(1663~1743)もお
おいに跳んでいる。白と茶色の線が交錯する様は抽象絵画のイメージとも重
なる。
サントリーは薩摩切子をたくさん所蔵していることで知られている。だから、
薩摩切子展(2009年)を開催することができる。もっとも有名なのが吉
祥文の蝙蝠が使われている‘藍色被船形鉢’。ほかにも‘紅色被鉢’など心が浮き
浮きするような薩摩切子がいろいろある。本当にすばらしいコレクション。