伊丹十三監督 ‘タンポポ’(NHKの‘8人の伊丹十三’より)
幅広いジャンルのある映画のなかでとくに熱をあげてみているのが‘刑事もの’、日本で作られた映画でお気に入りは‘砂の器’(1974年)、‘天国と地獄’(1963年)、‘飢餓海峡’(1965年)、TVで放送されたとき収録したビデオがあるのでこれまで数え切れないほどみてきた。
このうち黒澤明監督の‘天国と地獄’は嬉しいことに10月にBSプレミアムで放送された。で、TV本体にビデオどりしたので画質の向上したニュー‘天国と地獄’をこの2ヶ月繰り返しみている。2週間前の忘年会で会った映画好きの友人もこの映画を見たというので話が盛り上がった。
未見の作品も含めて久しぶりに何本もみた伊丹映画、そして‘世界のクロサワ’と‘世界のミフネ’がタッグを組んでつくった刑事ものの傑作‘天国と地獄’。ふたつをクロスさせてみているうちにいくつか共通することに気づいた。
世の中に数多くいる映画狂、監督や俳優をはじめとする映画の製作に携わる人たち、映画評論家からするとまったくの素人話なのだが、直感的‘黒澤明 VS 伊丹十三’を少しばかり。
黒澤明(1910~1998)より一年前に死んだ伊丹十三(1933~1997)は黒澤監督を敬愛していたのではないかと思う。作品の中にオマージュともいえることがでてくる。例えば、‘マルサの女’で山崎努が演じた脱税王の事業家の名前が‘権藤’、そして‘天国と地獄’でお抱え運転手の子どもを間違って誘拐した犯人に3000万円の大金を支払うことになる靴メーカーの重役(三船敏郎)の名前が‘権藤’。
もうひとつ、黒澤映画の‘生きる’では誰もがジーンとするシーンがでてくる。名優志村喬が雨のなか公園のブランコに乗って♪♪‘命短し、恋せよ乙女、、、’を涙顔で唄う。この公園のブランコが伊丹十三の‘ミンボーの女’の最後のほうにも出てくる。ブランコに隣り合わせで乗っているのはホテルの暴力団対策の若手担当者とミンボー専門の弁護士(宮本信子)。
女弁護士は東京の下町で医者をしていた父親が傷ついたヤクザの親分をかばったおかげ対立しているヤクザに殺されたことを話している。と、そのときにちょっと前ヤクザの威しに屈せず強い態度にでた担当者にめがけてチンピラが突進してきた。寸前でそれを体を張って阻止する弁護士、そのため鋭いナイフが腹に突き刺さった。一命はとりとめたものの大けがをしてしまった。
黒澤も伊丹も音楽の使い方が天才的に上手い。しかも、使う音楽はアメリカ映画やヨーロッパ映画並み。その一例が画像のシーンに流れる音楽。‘天国と地獄’は誘拐犯(山崎努)がはじめて姿をみせる場面。川の側の道を左の方に♪♪モーツアルトの軽快なメロディにのって歩いていく。
一方、伊丹の‘タンポポ’(1985年)、この場面はラーメンづくりの指南役を務める大型トラックの運ちゃん(山崎努)が女店主(宮本信子)にラーメンのできあがった時間をストップウォッチで計っているところ。ここで使われているのがなんとあのマーラーの大強音が響く♪♪‘交響曲一番(巨人)’。
モーツァルト、マーラーが流れてくれば外国人だって日本人がつくった日本映画でもすっとスクリーンのなかに入っていける。NHKの‘8人の伊丹十三’で知ったのだが、2016年に‘タンポポ’は全米60館以上で上映されたとのこと。今世界的にラーメンブームだからこの映画はおおいにうけたにちがいない。