画家には夫々個性があるから作風の異なる作品で競い合う。そうなると作品のタイプは無限に広がることになるが、実際はそうはならず似たような作品はまとめられてふとつのグループとか同じ系列の作品に分類されていく。
数多く描かれてきた宗教画にはいろんなタイプがあって、とっつきにくいものもあればラファエロの聖母子のように宗教臭くなく心を虜にする作品もある。ベラスケスと同じセビリア出身のムリーリョ(1617~1682)の描く宗教画はどこかラファエロを彷彿とさせる。
20点以上制作されたといわれるムリーリョの‘無原罪のお宿り’はプラドが4点所蔵している。その2点が日本にもやって来たが、ここにあげたものはなかなか貸し出してくれない。どこの美術館でも同じだが、至宝扱いの作品はがっちりブロックする。この絵がムリーリョの最高傑作。こんな心が安まる宗教画なら何時間でもみていたい。
‘ロザリオの聖母’はラファエロの‘椅子の聖母’のように散歩の途中で出くわす愛らしい赤ちゃんとお母さんをモデルにした感じ。背景の黒によって聖母子の白い肌が浮き彫りにされ、赤の布地の皺やひだまでも精緻に表現する高い技術にも魅了される。
バレンシア生まれだが、イタリアのナポリを拠点にして活躍したリベーラ(1591~1652)はカラヴァッジョから強い影響を受けたため、男性を主役にして明暗のコントラストがきいた宗教画をドラマチックに描いたというイメージが定着している。そんなりーべーらにも‘マグダラのマリア’のようなゾクッとする女性画がある。モデルは美形の女優のよう。
ムリーリョに先行してセビリアの人気画家になったスルバラン(1598~1664)には‘聖女シリーズ’の連作がある。‘ポルトガルの聖女イサベラ’は手にもっている‘奇跡のバラ’よりも身につけている当時の最先端のファッション思わせる華麗な衣装のほうに目が寄っていく。セビリアはこのころ交易で栄えたから衣装にも街の豊かさが現れている。