ピエロ・デッラ・フランチェスカの‘ヘラクレス’(1460~66年)
ボストンへ出かける前この美術館の作品情報はティツィアーノのエウロパだけ。こういう傑作がある場合、ほかはレベルが落ちるという話はこういう美術館に限ってはない。というのも、ガードナー夫人にはベレンソンという若い有能な美術史家がついており、ヨーロッパから豊富な絵画情報を夫人の耳に入れ購入を指南していた。
マザッチョ(1401~1428)の‘若者の肖像’は数少ない肖像画のひとつ。小品だが若者が被っている緋色のターバンの色遣いは新しい絵画をうみだしルネサンス絵画を先導するというマザッチョの意気込みが感じられる。マザッチョのイメージはこの赤のインパクトとサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂に飾ってある‘三位一体’でみせつけた遠近法。マザッチョの高い技術が発揮された作品をボストンでみれるなんて夢のよう。
印象派同様、ライフワークとしているルネサンス絵画なので美術本に載っている作品は特定の画家に絞らずなるべく多くみるように心がけている。ダ・ヴィンチ、ボッティチェリ、ラファエロ、フラ・アンジェリコのようにフィレンツェやローマに通うと代表作があれこれみれる画家については満足度のレベルはかなり高いところまできている。
でも、こういう観光都市ではなくイタリアの地方都市に作品が多くある画家はその距離がなかなか埋まらない。
ピエロ・デッラ・フランチェスコ(1416~1492)はそんな画家だが、なんとNYのフリック・コレクションとガードナー美に画集の載るほどいい絵がおさまっている。
‘ヘラクレス’はもとはフレスコ画だったもので1860年代に発見されたすぐ壁から剥がされた。そのため一部が失われているが、ガードナー夫人がベレンソンのアドバイスに従って1908年に購入した。彫刻的な人物表現で存在感のあるヘラクレスが神話的な英雄でなく村にいる元気な青年の凛々しい姿で描かれている。
オランダの人気の画家の作品もしっかりコレクションされている。レンブラント(1606~1669)の‘嵐のガルラヤ湖上のキリスト’とフェルメール(1632~1675)の‘合奏’。残念なことに‘合奏’はなかった。1990年に盗難に遭ったのである。もうすこし前にボストンへ行っておればみれたのだが。この絵はいまだに発見されてないがこのまま迷宮入りするのだろうか。でてきたら大ニュースになるのだが、果たして。