人物表現にはリアルな描写もあれば戯画的に描かれた顔が強い印象を与えるものもある。デュビュッフェ(1901~1985)の‘ミス・コレラ’は建物の壁に描かkれた落書きのようなもの。子どもなら誰でも描けそうな女性は仁王立ちし肩をいからせている。
人物の輪郭なら子どもでもたやすく真似られるが、砂岩を思わせるようなざらざらの絵肌は相当手がこんでいる。まるで太古の人類の祖先が洞窟にシンボリックに描きこんだ壁画のよう。伝統的な美の基準からすると大きくはみ出しているが、素朴な表現は心の奥でひだを微妙に揺すぶる。
ラム(1902~1982)の作品はアフリカの土着民にまつわる呪術的なイメージが強い。ここに登場するのは森のなかを走りまわる槍をもった男たちではなく、豊かな乳房が目を惹く大地の母。顔や頭はシュールな装いだが、アフリカ彫像に刺激を受けたピカソのキュビスムのフォルムも連想させる。
ドイツの画家、バゼリック(1938~)の代名詞は逆さの人物。この絵はメトロポリタン、MoMA,そしてグッゲンハイムに1点ずつある。流石、NYのブランド美術館。はじめてみたときは戸惑ったが、不思議なもので何度もみていると妙に惹かれるところがでてくる。それは例えば、‘グリーナー’の青と黒のように強い色彩の組み合わせが新鮮なのかもしれない。
5年前、東近美で回顧展が開催されたフランシス・ベーコン(1909~1992)、グッゲンハイムにはベーコンがよく描いた‘磔刑図’がある。相変わらず不気味な人体表現にはホラー映画で味わう恐怖感が漂う。