絵画の鑑賞に熱が入りだしたころはTVで放送される美術番組は欠かさずみて、作品や美術館の情報を貪欲に仕入れていた。最近は美術館巡りの番組はなくなったが、以前はこうしたシリーズに有名な美術館が登場した。
METが特集されたときは定番の名画の見どころ加え所蔵作品が美術館にどういう経緯でもたらされたかがわかるコレクター物語にも話が及んでいた。こういうガイダンスは頭によく残るので実際館内をまわる際はすごく役立った。
ルネサンス絵画に熱心ならダ・ヴィンチとラファエロが気になるが、METには残念ながらダ・ヴィンチはない。だが、ラファエロ(1483~1520)は20歳のとき描いた‘聖者と王座の聖母子’がある。これに対し、ワシントンのナショナルギャラリーはダ・ヴィンチの‘ジネヴラ・デ・ベンチ’とラファエロの‘アルバの聖母’をどんと飾っている。だから、この二人に関してはMETは目をつぶってね、というしかない。
ヴェネツィア派の大親方、ベリーニ(1434~1516)はアメリカ人コレクターはしっかり集めており、‘聖母子’も魅了される一枚。顔をちょっと傾けてこちらをみる聖母の目が強く印象に残った。この表情は普通の女性そのもの、宗教色がないのは幼児キリストも同じ。なんとも可愛い赤ちゃん。
TV番組の解説が頭の中によく入っているのがともにシエナの画家、パオロ(1400~1482)とサセッタ(1392~1450)が描いた‘世界の創造と楽園追放’と‘東方三博士の旅’、二人の絵を見る機会はきわめて少ない。これまで出会ったのを記憶しているのはMET以外ではルーヴルとロンドンのナショナルギャラリーくらい。
パオロの絵はおもいろい工夫がされている。世界の創造とあの楽園追放の二つの話が一緒に描かれている。気を引くのは太陽系の天体の軌道を連想させる‘世界の創造’、ケルビムの雲に乗ってやってきた神と何層にも重なる円の組み合わせは一度みたら忘れられない。
‘東方三博士の旅’のみどころは三博士たちが山を下っているように描いているところ。旅人たちがただ横に移動するより、こうした地形のアップダウンのなかを歩いている姿のほうがいかにも長い道中を進んできたという印象を与える。